徳島ヴォルティスのキャプテン、岩尾憲の口からは、昇格を成し遂げた重みを確かめるように感動的な言葉が次々と出てきた。過去の失敗を「十字架」と表現して持ち続けた男がたどり着いた歓喜の瞬間。その言葉を味わおう。

上写真=普段は落ち着き払ったキャプテンの岩尾憲も大喜び。2017年のあの悔しさが報われたという(写真◎J.LEAGUE)

「初心に戻って、子供心に戻って、遊び心を持って」

 ヴォルティス徳島のキャプテン、岩尾憲は泣いていた。J2第41節で大宮アルディージャを2-0で下し、J1昇格を告げるホイッスルがスタジアムにこだますると寝転んで天を見上げ、泣いていた。仲間たちが駆け寄ってくる。

「今年から来た選手もいますけど、僕は僕なりの長いストーリーがこの場所にはあります。いろいろ思い返すと僕の中にはいいことばかりではなかったので、それがフラッシュバックするかのような涙だったという感じでしたね」

 長いストーリー……岩尾は昇格が決まってすぐに、2017年のあのときのことを思い出したのだという。

「2017年、プレーオフに行けなかったヴェルディのアウェー戦でしたけど、それからこう、カッコつけた言い方をすると十字架を背負ってきたというか、そういう感覚が…そんなの背負わなくてもいいと言う人もいますけれど、僕の性格上、捨てきれない、捨てちゃいけないと思っていたので、2017年のことが最初に浮かびましたかね」

 2017年11月19日のJ2リーグ最終節、アウェーの東京ヴェルディ戦。引き分け以上でJ1昇格プレーオフ進出を決めることのできる徳島はしかし、1-2で敗れた。岩尾はその責を「十字架」として背負い続けてきた。それをようやく下ろすときが来たのだ。こらえきれずに涙があふれてきた。

「こういう瞬間が来ることを想像していましたけど、想像してたけど想像できていないというか、どこかリアルでないイメージしかできていなかったので、笛と歓声を聞いたときは、現実なのかなんなのかちょっとよく分からない時間が一瞬ありました。でも、仲間の歓声と僕を呼ぶ声といろんなものが相まって、これが現実なんだなと認識した感じです」

 今季は王手をかけながら、昇格決定のチャンスを2試合、逃してきた。だから、プレッシャーがあったのだと本音も明かす。

「昇格がかかってから2試合、負けと引き分けとで今日まで来て、プレッシャーとか焦りみたいなものもなくはなかったです。いつもそれと真っ向から向き合って、そこから逃げないようにやって来ましたけど、今日はまた少し違う視点というか、一度そういったプレッシャーとか状況とか置いておいて、自分がプレーヤーとしてここでサッカーができることを、初心に戻ってというか子供心に戻ってというか、遊び心を持って自分のサッカーをしたいと強く思って入ったので、それがいい形で表現できて結果にもつながったということで、僕にとって非常に意味のある一日になったなという感想です」

 背負った十字架と同じ重さの遊び心があったからきっと、ほどよく力が抜けて1-0の勝利をしっかりと手繰り寄せたのかもしれない。

「サッカー的な、戦術的な部分の浸透が例年に比べて早かったことが、チームの完成度に大きな影響を与えたのは間違いないです。もう一つは目に見えないことですけど、人と人の信頼関係だと思います」

 こうやって話し始めた「昇格を手にすることができた理由」についてもまた、岩尾はとても感慨深い言葉で表現していくのだった。

「僕たちは誰か一人に頼りきりでなんとかするチームではなくて、いろんなことができるプレーヤーもそんなにいないというか、みんなそれぞれ違った個性と武器がある中で、できないことにイライラしたりとかできないことを求めて文句を言ったりとか、そういうことじゃなくて、できないことはみんなで補って、できることはほめてあげて、そういう人間らしさみたいなものが、出ている選手にも出ていない選手にもこのチームには練習から詰まっているので、その2点がここまで来ることができた要因なんじゃないかなと思います」

 今季の残りはあと1試合。同じく昇格を決めたアビスパ福岡とのアウェーゲームだ。勝ち点は徳島が84で福岡が81。負けたら並ぶが、得失点差は35と21で14もリードしているから、現時点でも「ほとんど優勝」だ。

 でも、最後は勝って終わりたい。素敵なクラブが送ってきた素晴らしいシーズンの、岩尾にふさわしい美しい締めくくりとして。


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