この連載では2020年シーズンのJリーグで注目すべきチームやポイント、見所を紹介していく『Jを味わう』。連載第11回で取り上げるのはJ2で快進撃をみせるアビスパ福岡だ。長谷部茂利監督は引いも出ても強いチームをつくり上げた。

上写真=25節終了時点でフアンマと並びチームトップの7ゴールを挙げている遠野大弥(写真◎J.LEAGUE)

文◎北條 聡

籠城戦は次善の策に過ぎない

 まさに進撃の巨人である。

 目下、徳島ヴォルティスに次いで2位(J2)につけるアビスパ福岡だ。一時は17位まで沈んでいたが、9月に入ってから怒とうの10連勝。瞬く間にJ1昇格圏内(2位以内)へ食い込んだ。

 いったい、強さの秘密は何なのか。

 まずもって守りが堅い。25節終了時点における総失点19は徳島と並ぶリーグ最少。10連勝のうち、実に7試合が完封勝ちである。この間、2失点以上を喫した試合は1つもない。守ると決めたら徹底的に守る。逃げ切る際は5ー4ー1の人海戦術だ。対戦相手の多くが次々と人の海に呑み込まれ、溺れていった。

 一方、攻めは速い。敵のボールを刈り取ってからの電撃的な逆襲に大きな強みがある。守備側の組織が整う前に鋭く仕掛け、一気に片をつけるのだ。攻撃の要諦は幅と深さと言われるが、福岡は「深さ」を使うのが実に上手い。後方から一発でライン裏に落とすタッチダウンパスを繰り出し、何度もゴールネットを揺らしてきた。

 今季のJ2において、最も失点を回避しやすい守り方と最も効率よく点を取る攻め方に熟練したチームだろう。まさに堅守速攻の動く教本だ。しかし――である。これ一辺倒で勝ち続けられるほど勝負の世界は甘くない。福岡の強みはプラスアルファ(+α)を持っていることだ。

 そもそも長谷部茂利監督の掲げるゲームモデルは高い位置からの苛烈なプレスでボールを刈り取り、素早く攻め切る「奪取速攻」にある。引いて守りを固める籠城戦は次善の策に過ぎない。城から出て、野戦に挑むアグレッシブな戦いぶりこそ長谷部アビスパの真骨頂だろう。

 今季のJ2では後方からしっかりとパスをつないで攻めようとするチームが増えたが、そうした相手は格好のカモだ。各々が連動してプレスをかけながら中盤の狩り場に誘い込み、ボールを奪って一気に裏返す。3-1と快勝したV・ファーレン長崎戦(22節)の2点目はその好例だろう。右サイドに追い詰め、ボールをかすめ取った松本泰志が間髪を入れず縦パスを放ち、ライン裏へ抜けた遠野大弥が見事フィニッシュへ持ち込んだ。

 この囲い込みで効いているのが2列目のプレスバックである。トップ下の遠野、右翼の増山朝陽、左翼の石津大介が背後から素早く寄せることで、攻撃側は肝心の退路を失い、挟み撃ちされるわけだ。こうした骨の折れる作業を惜しまずやり続けるアタッカーなどそうはいない。プレスの破壊力に優れた一因だろう。

 ボールを持ったら前へ。いや、相手ボールでも前へ出ていく。相手側に休む暇を与えないプレー強度の高さが福岡の強みだが、さすがに90分間やり続けるのは難しい。ただでさえ今季は過酷な連戦を強いられる過密日程だ。前から行く、行かない――というメリハリ(使い分け)が必要になる。適切な判断が問われるわけだ。

 いまの福岡には機に臨み、変に応ずるしたたかさがある。無論、攻撃もそうだ。最優先の攻め手は速攻だが、縦に急ぐばかりではボールロストが増えて、体力も続かない。そこで頼りになるのがキャプテンの前寛之だろう。

 この人こそ中盤の狩り場に君臨し、攻めの基点にもなるチームの頭脳だ。速攻か、遅攻か。その見極めが上手い。速攻が難しいと判断した場合は一度、局面を落ち着かせ、ボールの確保に切り換える。これで不用意なボールロストが減り、攻撃の質も格段に上がったわけだ。


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