アルビレックス新潟のDF早川史哉選手が白血病を患ってからピッチに戻るまでの苦悩やその後の物語、多くの「仲間」たちの視線を集めたこの一冊。お届けしてきた編集後記の番外編として、実際の作業に携わった編集者の思いをお送りします。

書籍「生きる、夢をかなえる 僕は白血病になったJリーガー」の詳細はこちら

◆過去の連載はこちら→第1回第2回第3回最終回

何かのヒント、とっかかりになれば

 この本の編集を担当しました。

 編集者としての立場から、本書に対する思いを語ってみたいと思います。

 本書の意図、存在意義は本のタイトルに集約されていると思います。

「生きる、夢をかなえる」

 じつにシンプル、よくあるコトバで、人によっては平凡に感じるかもしれません。

 でも、早川選手がこのコトバを使うと、深みがまったく違ってきます。

 早川選手は骨髄移植を経て白血病を「寛解した(症状の進行が止まり、コントロールできている状態)」ものの、克服したわけではないとして次のように語っています。

「白血病は、骨折やじん帯断裂が治るような意味での『完治』という言葉は当てはまりません。常に病気のリスクを抱えていると、僕は解釈しています。僕はいまも、心の中で常に病気と戦い続けています。『もしも再発したら……』という恐怖は、僕の中にずっと存在し続けます」

 心のどこかに不安を抱えながらも、いまの一瞬一瞬、毎日の「日常」をかみしめるように過ごしていらっしゃるのだと思います。

 だからこそ、当たり前の日常に対して次のような感慨が沸き起こってくるのでしょう。

「家族や友人、チームメートとご飯を食べているようなふとしたときに、いいなあ、と心から感じます。毎日を過ごせる幸せ。生きるのはつらいことではなく、とても幸せなことです。

 入院生活のつらい部分、孤独な思いがあったからだと思います。心の底までつらさや孤独を感じ切ったからこそ、毎日を過ごしながら気付くことができるいまの幸せ、ありがたみがあります」

 ひるがえれば、新型コロナウイルス禍にあって、私たちや読者のみなさんも「ごくありふれた日常」がいかに幸せなものかと感じた瞬間があったかと思います。

 もちろん早川選手の体験された悩み、苦しみ、恐怖は私たちにはうかがいしれないものがあります。

 とはいえ、読者のみなさんの中にも悩み、病気、生きるつらさなどを大なり小なり抱えていらっしゃる方も少なくないと思います。この本が、「日常に幸せを感じながら生き続けていく」ための何かのヒント、とっかかりになれば、編集担当者としては本望です。

ベースボール・マガジン社 出版部 本多 誠


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