明治安田J1リーグはおよそ2週間の中断を挟んで、6月14日に再開する。FC東京はまさかの18位と降格圏に沈んで、逆襲の後半戦に挑むことになる。ブラッシュアップすべきポイントはたくさんあるが、中でもJ1で3番目に多い失点26を喫した守備の改善は急務。センターバックとしてチームで最も長く試合に出場している土肥幹太の視点から、V字回復へのキーを探る。

上写真=土肥幹太はいままさにチームリーダーへ変貌しようとしている(写真◎J.LEAGUE)

「1回失敗したぐらいで」

「1407分」の出場時間はチーム最長。20歳のDF土肥幹太は、FC東京の前半戦の成長株筆頭だ。

 2024年はシーズンを通じてリーグ戦16試合で1230分の出場だったので、すでにプレータイムは昨季超え。今季は前半戦だけで昨年と同じ16試合に出場しているから、単純に「2倍速」で成長曲線を描いていると言えそうだ。

「出場時間を確保できている分、経験という部分では大きな成長につながります」

 できるだけ長くピッチに立つことが、成長の礎になっていることを、なにより土肥自身が実感している。ただし、「でも…」と続けるのだ。

「やっぱりチームの状況を考えると、自分の成長よりもチームの勝利が優先だと強く感じます」

 チームは降格圏の18位に沈んで、6月の中断期間を迎えた。特にその直前、第17節浦和レッズ戦、第18節サンフレッチェ広島戦、第19節京都サンガ戦ですべて3失点を食らって3連敗と苦しい。守備の再構築は急務である。

「一番多いのが、クロスからの失点。全体練習のあとにもクロス対応の練習はしていますけど、失点につながっています。マークについていても、他の人が外してしまったらそこにカバーにいけるように、守備範囲をもっと広くしなければいけないと感じています」

 自分のマークに決めさせないのは大前提。ボールは一つしかないのだから、本当に危険な場所も一つ。そこに飛び出していって体を張ることを自らに求める。

 今季、就任した松橋力蔵監督は3-4-2-1のシステムを採用し、3バックでは森重真人、木本恭生、エンリケ・トレヴィザン、木村誠二、岡哲平、安斎颯馬がプレーしてきた。そして、その右のポジションを獲得したのが土肥だ。18試合のうち、出場した16試合はすべて先発で、途中でピッチを離れたのは3試合だけと、いまやディフェンスリーダーなのである。

 その松橋監督は、土肥の振る舞いに目を見張る。まずはプレー面について。

「3バックのサイドがワイドに開いて攻撃にどう参加できるか。ウイングバックが優位性をつぶされたときに、次に優位になるのはこのポジションです。自分がビルドアップの出口になるところから、中に入っていったり、中盤に出ていってボランチ化していくような形を自分のものにしようとしています」

 続けて精神面。そこにこそ、大きな成長を感じているという。

「物怖じしないですよね。1回失敗したぐらいでずっと下を向いているやつじゃない。そういうメンタリティーの強さがあって、サッカーに対してトライしたい思いがあることを感じています。結果がついてこないいまは、本人も自分が本当に成長してるのかと思っているかもしれないけれど、十分に大きく成長して、チームのために一生懸命にいろんなことにトライしてくれてる選手の1人だと思っています」

「いつまでも頼っていられない」

「確かにあんまり落ち込むタイプじゃないんでね。いまはこういう順位ですけど、下を向いていたら何も始まらないと思いますし、どんどん下にいってしまうと感じてしまうので、上を目指しながらやっていきたい」

 松橋監督の言葉を伝えて返ってきた言葉は、確かに前向きだ。このチームには超ポジティブな長友佑都という大先輩がいるが、波多野豪や岡哲平と同じくその系譜を継ぐキャラクターである。そこにプレーの裏付けがあれば、なおさら成長できる。

「京都戦のああいうミスで失点してしまって、そういった部分は直さないといけない。成功する場面も増えてますけど、センターバックならやっぱり成功率が90パーセント、95パーセントはなくてはいけない。全然足りていないですけど、まだ伸びしろがたくさんあると感じてます」

 その京都戦、70分に低い位置で波多野から受けて展開しようとした瞬間に引っ掛けられて、そのまま失点を食らった。勝負に直結するセンターバックとしては叱責を浴びるプレーだったが、失敗そのものに対する猛省と、そこから手にすべき経験値を貪るようにその身に取り込もうとしている。

 一方で、攻撃面では著しいインパクトを残したシーンもあった。第14節のアルビレックス新潟戦の52分、鮮やかなコンビネーションから小泉慶がチームの2点目を決めたのだが、この攻撃を組み立てからスタートさせて、最後にアシストしたのが土肥だった。

 相手の縦パスを鋭い出足でインターセプトして前へ、小泉からもらい直してさらに中央の高宇洋に預けると、足を止めなかった。左に展開する間に一気にペナルティーエリアに入り、クロスはクリアされるものの小泉が拾って2次攻撃。土肥は内側で受けると小さく縦に通して佐藤恵允とワンツー、そのまま中に渡したところに小泉が出てきて、ドリブルからきれいに流し込んだ。

「パスもよかったと思うけれど、そのパスよりも、やっぱりあそこに入っていけたのが一番の成長かなと思います」

 ペナルティーエリアまで思い切り出ていく判断を自画自賛した一連の動きは、まるで技巧派アタッカーのようで、お見事だった。

 ただ、これを再現できないのも、チームの苦悩を示している。

「あの新潟戦からなかなかそういう場面を出せていないんです。前の選手にいい形でボールが入っていないので、後ろから上がる時間がない。僕たち後ろの選手のビルドアップからいい形でボールを入れてあげたら、自分たちが上がれる回数も増えると思うので、パスの精度、トラップの精度を上げていかなければいけないのは、ものすごく感じています」

 松橋監督は「もちろん4-4-2も頭の中には当然まだあります」とするが、どんな布陣になったとしても、攻撃を活性化させるためには自分の効果的なパスが必要だと土肥は強調する。それは、守備も攻撃もリードしていく自覚の芽生えだ。

「このクラブには偉大な選手が多いですけど、そこで負けてちゃダメだと思うんです。いつまでも頼っていられないし、追い越していくような気持ちでやっていかないと」

 青赤の真のリーダーになってみせる。必要なのは「声」だという。

「声というのは、自分の発言だったり、守備のときの声かけだったり、ハーフタイムの声かけといったことで、そういうものがすべてつながっていくと思っていますから」

 FC東京の逆襲の後半戦、土肥幹太の「声」を聞け。


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