4月29日の明治安田J1リーグ第13節で、横浜FCと鹿島アントラーズが対戦した。前半は横浜FCに迫力があったが、終わってみれば鹿島が3-0で勝利。苦しんだ前半から、見違えるような後半のゴールショーはどうして生まれたのか。

上写真=鈴木優磨は2点目を決めるなど、印象的なプレー。さまざまなものを引き付けるチームの中心だ(写真◎J.LEAGUE)

■2025年4月29日 J1第13節(観衆:13,252人@ニッパツ)
横浜FC 0-3 鹿島
得点:(鹿)チャヴリッチ、鈴木優磨、オウンゴール

画像: ■2025年4月29日 J1第13節(観衆:13,252人@ニッパツ) 横浜FC 0-3 鹿島 得点:(鹿)チャヴリッチ、鈴木優磨、オウンゴール

そっちのほうがうまくいった

「たぶん、初めてぐらいじゃなかったかな」

 鬼木達監督は選手を頼もしく見やって、そう明かした。

 レオ・セアラ、濃野公人、小池龍太など、ここまでプレータイムが長かった選手にケガが続出している鹿島にとって、この連戦はいかに選手を組み合わせて勝利をもぎ取るかの戦いでもある。「とにかく結果を一番に求める」と鬼木監督は言葉に力を込めて、その思いを訴える。

 この横浜FCとのアウェーゲームでは4-2-3-1の布陣で臨んだが、荒木遼太郎をトップ下に置き、鈴木優磨は左サイドハーフとして起用している。ところが、横浜FCの活発な両サイドに後手を踏み、ピッチが乾いてボールが走らないこともあって、鈴木のところまでなかなか届かない。

 すると、30分過ぎには鈴木が中央に進出していく。田川亨介と並んで最前線に立ち、荒木が左サイドハーフにスライドする4-4-2になった。これで明らかにボールが巡るようになった。

 鈴木が明かす。

「途中で1回、中に入ってみたらそっちのほうがうまくいったんです。それでオニさん(鬼木監督)もそうしようと臨機応変にやってくれました」

 ピッチの中で選手が責任を持って判断してポジションを入れ替え、鬼木監督がそのままいこうと同意する形になった。その一連の流れが「初めて」だったというのだ。

 そもそも、ピッチ上において相手や状況を観察しながら判断して崩していこうと求めるのが鬼木スタイルだ。就任1年目のリーグ13試合目、しかもケガ人が続出する中で、求めてきた戦いが表現できるようになった、そんな意味深い瞬間だったのである。

 鈴木はそのとき、どんな判断を下したのか。

「下が相当乾いていたので、横パスも縦パスも入れるのは非常に難しいし、受けるほうも1個のパスにすごい力を使わなきゃいけなくて。でも、左サイドにいてどこを狙えるかはもう分かっていたので、中に入って自分がやることは整理していました。それをしっかりできたということです」

 横浜FCの四方田修平監督は「鈴木優磨選手は右にも左にも動く選手なので、結果的にはそういう個人の能力によって失点につながったのかなと思います」と、その実力を認めるほかなかった。

 背番号40がピッチの中央に立つと、相手選手はマークにつくしかなくなる。ブラックホールがあらゆるものをのみ込むように、その一点に集中することになり、やがて体力も気力も吸い込まれるように奪われていく。

 同じように、味方からの縦パスもどんどん足元に入ってきて、リズムが生まれていく。これが、苦しみながらも0-0で折り返した後半に3ゴールが生まれた遠因になっているだろう。

もっともっと

 後半開始早々にチャヴリッチが右サイドをロングドリブルで突き進み、ボックス内に入って切り返しの連続を仕掛けたところで足をかけられてPKに。これをチャヴリッチ自身が冷静に右に送り込んで、鹿島が49分に先制した。

 67分には安西幸輝が左から一気に右にサイドチェンジ、受けたチャヴリッチが短く中央にラストパスを送ると、走り込んだ鈴木が蹴り込んで追加点。

 締めは77分で、相手FKを防いだあとのカウンターで三竿健斗が力強く持ち運び、そこからまたも右を松村優太のドリブルで破り、最後はゴール前の混戦からオウンゴールを誘った。

 自らも貴重な追加点を決めた鈴木は、一気に決着をつけた戦いぶりに胸を張る。

「いま自分たちのできていることとできていないことを冷静に分析して、そこへチャレンジすること、それから、勝ってきた理由は何なのかという部分をバランスよく出せているのがでかいかなと思っています」

 まさに、「できていないこと」を「できること」に変換したのが、鈴木の自主的なポジション変更だったことになる。ただ、鬼木監督は3-0の勝利にも表情は険しかった。それは「選手への期待も大きい」からだ。

「選手への期待も大きいので、もっともっとボールを受ける作業やボールへ向かう作業が必要で、そこのひと手間がもう一つでした。距離感の問題だとは思うんですけど、後半にはああやってできるわけなのでね」

 スコアの上では快勝に見える90分を終えた直後であっても、もっともっとと求めていくのが鬼木監督らしさ。それでも、これで3連敗のあとに3連勝とV字回復だ。しかも、京都サンガが敗れたために、8節以来の首位に立った。

 キックオフが1時間遅かった京都の結果と順位のことを伝えると、これで今季は5度目のトップであることもあって「そうなんですね」と静かに一言。一喜一憂しない、というのも、鬼木達の流儀なのである。


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