上写真=最後までサッカーに対する熱い思いとファン・サポーターへの感謝を繰り返したミシャ監督(写真◎佐藤景)
この結果をもって去るのは心苦しい
「7年間、札幌で監督を務め、札幌に関わるさまざまな方々と共に過ごしてきた中で、皆さんに多大なるご支援をいただき、素晴らしい時間を過ごしてきたと思っています。クラブスタッフ、パートナー、メディア、そしてサポーターの皆さんの支えがなければ、この7年という長い期間、仕事ができなかった。
私にとっても長い監督キャリアの中で最も素晴らしい時間をこの札幌で過ごすことができました。本当に皆さんに心から感謝申し上げたい」
2018年から7シーズンにわたって北海道コンサドーレ札幌の指揮を執ったミシャことミハイロ・ペトロヴィッチ監督がJ1最終節を終えた翌日9日に、退任会見を行った。登壇した指揮官が最初に語ったのは、札幌に関わるすべての人々への感謝だった。
昨シーズンから主力の流出が続き、今シーズンはケガ人が相次いだ。終盤は盛り返してみせたが、後半終了間際に失点を重ねる悪癖を払拭することができず、勝ち点を積み上げられなかった。37節の前日に2016年以来のJ2降格が決定。最終節を前にミシャ監督の退任がクラブから発表された。
「サッカーの世界というのは、やはり結果で評価されるもの。サッカーはそういうスポーツだと思います。私自身、今シーズンはなかなか良い結果が出せない中で、最後は降格してしまう、非常に不甲斐ない結果で終わってしまった。そのことに対して申し訳ない気持ちでいっぱいです。この結果をもって私自身がここを去らなければいけないのは、非常に心苦しい」
札幌を降格させてしまった事実を重く受け止めるミシャ監督は改めて謝罪した。そして、チームを降格させたまま、再起させることなく去らなければならないことを「心苦しい」と言った。
エレベータークラブだった札幌を6シーズン、J1に留まらせ、2018年には過去最上位となる4位、そして翌19年には初めてルヴァンカップ決勝に導いた。そして同年から今年まで毎年グループステージを突破させていることも、予算規模や戦力を踏まえれば、特筆に値する。
何より現Jリーグチェアマン、野々村芳和社長(当時)に招へいされた時に求められた通り、札幌を攻撃的なチームへと変貌させた功績は大きい。
「7年間の中で、さまざまな事が起こりました。ネガティブなこともありましたし、ポジティブなこともあった。ただ、そういう中で私自身の信念、私が思う仕事は達成できたのではないかと思います。もちろん、今シーズン降格してしまったことに関しては非常に申し訳ないと思っていますが、この札幌で、私に何が求められ、監督としてどんな仕事をしてほしいと思われたのか。それは札幌を攻撃的なチームにしてほしいということでしたし、見る者を魅了するサッカーをみせるチームにしてほしいという目標がクラブにはありました。その意味で、札幌はこういうサッカーをするという、代名詞みたいなもの、攻撃的という印象を(多くの人に)持ってもらえたのでないかと思う」
広島時代も、浦和時代も、そして札幌でもミシャ監督に守備に関する質問をして一笑に付されたことが何度もある。ずいぶんと失礼な質問もしたが、そのたびに指揮官は最後は笑って「攻撃と守備を分けて考える事自体がナンセンス」と締めくくるのだった。守備は攻撃のためであり、ゴールを奪うためにある。その大前提が失われたとき、ミシャ監督が考えるサッカーは、サッカーではなくなる。
「日本のサッカーファンに、自分の応援しているチームの次にどこのチームのサッカーを見たいか?と聞いたら、おそらく札幌のサッカーを見たい、応援したいという人が多いのではないかと思う。そういう意味で、やはりこの札幌がどういうサッカーをするチームであるか、日本のサッカー界に発信できたことには、ある意味、満足しています」
広島で6年、浦和で6年、そして札幌で7年。日本サッカー界に大きな足跡を残した指揮官は、今年行ったインタビューの中でこう言っていた。
「日本のサッカーに何が残せたかは正直、私自身にはわからない。でもサッカーの面白さや素晴らしさを知る人を一人でも増やすことができていたら本望だ」
37節の広島戦後の会見で監督引退の可能性を「95%」と話したミシャ監督は、シーズンを終えた今もその思いに変化はないと言った。「この世界、何が起こるかわからない」ともミシャ監督はよく言うが、しばらくは自宅のあるオーストリアでゆっくりすることになりそうだ。
「サポーターの皆さんはやはり結果を求める。ただ札幌のサポーターはいいときはもちろん、そうじゃないときも常に応援してくれる。うまくいかないとき、結果が出ないときに、それでも応援し続けてくれる札幌のサポーターを、私は本当に素晴らしいと思います。その姿勢は(これからも)貫いてほしい」
自身の指導キャリアの中でも最長となる7年間を過ごした札幌のファン・サポーターに対しての思いを強調したミシャ監督。最後は「またどこかで。いい季節になったら…6月には旅行で札幌に来るかもしれない」と笑って、会見場をあとにした。
取材◎佐藤景