長くFC東京のゴールを守ってきた林彰洋が、契約満了に伴ってチームを去ることになった。11月4日に発表した翌日の明治安田生命J1リーグ最終節で、2年ぶりのベンチ入り。そこから見上げたスタジアムの光景は、次のステージへの大きな力になる。

上写真=林彰洋が6年を過ごしたFC東京から旅立っていく(写真◎J.LEAGUE)

「後悔させることが最大の恩返し」

 意外だが、涙もろいという自覚が強い。

「みんなの前で話す機会を提案されたのですが、話してしまうと、泣いてしまうので断りました。僕の思いはリリースで出したコメントがすべてです」

 林彰洋がFC東京を去ることになった。どんな形であっても、自分がチームを離れることをファン・サポーターに明かさないことは、できなかった。11月4日、たっての希望で、契約満了によりFC東京を去ることを公表した。

 契約満了のリリースには、こう綴った。

「今シーズンをもって退団することになりました。
 まず、今日までのこの2年間はファン・サポーターの方に一番感謝を伝えたいです。
 FC東京には6年間という長い期間在籍させていただきました。特にこの2年間は僕がサッカー選手としての価値が無い、正直そういう状況であったのにも関わらず、多くのファン・サポーターの方から励ましのコメントや、気にかけていただくコメントをいただき、本当に助けられました。
 言葉で言い表すことができないくらい感謝しています。それがこの2年間の想いです。
 同時にやはり、支えていただいた方々への感謝を結果として残したい、見せられるような準備をしたいと常日頃から思っていました。それはピッチに戻ってきてやれている姿を見せられることだと思っています。
 東京のピッチに戻ることは中々難しい状況でかなわなかった部分はあるのですが、自分のなかでは試合に絡むことができないその想いが僕のバイタリティであり、逆境魂を常に持って、このプロの世界を生きてきたようなものなので、やっぱりその魂は消えていないと自分の中では思っていて、また新たな環境でチャレンジをしてFC東京というチームには林がいたという記憶に戻ってくるような活躍をしたいと思っています。
 唯一の心残りは、やはりFC東京にきてリーグ優勝をすること、それが目標であり、掲げ続けた課題ではあったので、それが達成ができずにこのチームを離れてしまうことが心残りです。 ただ、この残りのサッカー人生にもう一花、二花咲かせられるように感謝の気持ちを持って、どのチームでも達成できるようにやっていければと思います。また会いましょう。ありがとうございました」
 事務的で冷淡になりがちなプレスリリースに、思いがたっぷりこもっていた。
「僕の意思で出していただきました。6年間在籍してこの2年間については不甲斐ない思いをずっとしていた中で、契約満了という出し方は選手にとっていい方向には働かないことが多い。でも、それと天秤にかけても、この2年間にメッセージやコメントをいただいた方に、次のチームが決まるまで音信不通にすることは、僕として絶対できることではなかったので、出させていただきたいとお話しさせていただきました」

 右膝前十字靭帯損傷、外側半月板損傷という重傷でこの2年、手術とリハビリを繰り返した。治りかけては痛め、また快方に向かっては違和感に絡め取られた。痛みと苦しみをSNSで発信した。それは闘いだったが、有形無形の愛情を感じる時間でもあった。

 その最後のときを、ベンチで迎えた。

 11月5日の最終節、川崎フロンターレとの多摩川クラシコで控えのメンバーに入った。2020年11月11日以来の試合メンバーだ。優勝のかかった相手と点の取り合いになり、結局2-3で敗れたが、最後まで出番に備えた。

「今回の契約満了は悔しさが大きく、僕としてはまだプレーできたと思っています。このチームの決断が後悔に変わるように次のチームで活躍したいと思っています。もちろん、チームの判断は僕としても理解できます。2年間、使いものにならなかった選手がシーズン終盤に復帰して、それで契約を延長できることはないと思っているので、次のチームで活躍して後悔させることが最大の恩返しだと思っています」

 実は、復帰のそのときに向けて、インタビュー取材を進めていた。そのときに聞いた言葉の数々――苦悶、活気、悲哀、希望、焦燥、根性、消沈、勇気、不安、男気――は、ざっと書き出しただけでおよそ1万字になった。そこからその芯に眠る思いを削り出す作業に取り掛かるはずだった。

 FC東京の選手としての出場はかなわず、最終的な形にすることはなくなった。でも、重みを持った一つひとつの言葉は林彰洋の中に蓄えられ、未来への力になるのだと思う。

取材◎平澤大輔


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