鹿島アントラーズにとっては、難しい試合になった。7月2日の明治安田生命J1リーグ第19節の柏レイソル戦。エースの上田綺世が移籍を発表した直後の試合で、何よりも勝利を求め2-1で逃げ切った。決勝点はPKから。鈴木優磨がエヴェラウドにキッカーを譲った理由が、このチームの強さを象徴している。

上写真=鈴木優磨は難しい試合で「泥臭く戦って勝てた」ことに胸を張った(写真◎J.LEAGUE)

■2022年7月2日 J1リーグ第19節(三協F柏/12,462人)
柏 1-2 鹿島
得点者:(柏)武藤雄樹
    (鹿)キム・ミンテ、エヴェラウド

「PKが本当に下手だから」は照れ隠し?

 上田綺世がいない。

 それだけでチームが弱くなるとは言わせたくない。鹿島アントラーズは10ゴールで得点ランクトップに立つエースを、ベルギーのセルクル・ブルージュへの移籍で失ってから初めてのゲームで、2-1で競り勝った。

 前半のアディショナルタイムにキム・ミンテが先制しながら、63分には同点とされる。ホームチームが逆転を狙って勢いを増したが、うまくさばいて粘り強くチャンスをうかがった。鈴木優磨は80分に左スローインを受けて「タッチか大きくなったと思っていたら、うまく抜け出せて」ペナルティーエリアへ。上島拓巳の足に引っかかって倒され、PKを獲得した。

 だが、PKスポットに向かったのは、鈴木ではなくエヴェラウドだった。

「綺世か抜けたいま、エヴェラウドにかかる期待は大きいし、僕自身、個人的な目標としてもエヴェを復活させることが大きなミッションです。綺世も素晴らしいけれど、エヴェも負けないぐらい素晴らしいとわかっているので、僕が決めて勝つよりエヴェが決めて勝った方がいいし、みんながエヴェのゴールを待っていましたから。蹴って自信を取り戻してほしいと思って譲りました」

 そのすぐ後に「あと、PKが本当に下手なので」と笑わせたのは照れ隠しかもしれないが。

 エヴェラウドが決めるそのシーンを、鈴木は背を向けていて見ていないという。「エヴェより緊張して見ないようにしました」と意外な一面も。

 決めたエヴェラウドは、自身今季リーグ初得点。33試合で18ゴールを決めて得点ランク2位につけた2020年の輝きを取り戻す第一歩にしたい。鈴木の思惑通りに、確かな自信を手にしたようだ。

「リーグで1点を取れたことで、今後多くの得点につながることを願っています。自分にも期待しながらやっていきたいと思います。そのためにこのチームに呼ばれたのですから」

 戦い方としては不恰好で、鈴木も「スペシャルな選手が抜けたいま、泥臭い1点差のゲームでも、全員で戦うことを目指そうとみんなで話をしました」と認めるが、どんな状況でも勝つのがこのチーム。

「(上田の移籍は)間違いなくチームには痛いけれど、それでも鹿島というチームは誰が抜けても勝ってきました。今日は非常に難しいゲームだったけれど、泥臭く勝つことができたと思っています」

 鈴木は兄貴分としての役割をまっとうし、その心の中にも自信がしっかりと根を下ろした。上田も思い残すことなく、旅立てるだろう。

取材◎平澤大輔 写真◎J.LEAGUE


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