FC東京のマーケティング本部を統括する川崎渉本部長に聞く連載の後編は、クラブのコンセプトとリンクするデジタルマーケティングについて。「サッカー」はピッチの上だけで行われているわけではないのだ。

上写真=「青赤パーク supported by XFLAG」は試合前の時間を楽しむために、グルメやイベントが盛りだくさんだ(写真◎F.C. TOKYO)

(前編はこちら

プロサッカービジネスの3つの側面

 FC東京のデジタルマーケティングを担うマーケティング本部の川崎渉本部長が、この連載の前編で、その2つの目的を「リアルでは届かない方々ともコミュニケーションをすること。お客様の属性や行動に基づいてより満足してもらえるコミュニケーションをすること」とした。

 でも、どうしてその目的を達成する必要があるのだろうか。

「勝つため、です」

 川崎本部長は、シンプルに力強く宣言する。プロサッカークラブが営利企業である以上、利益を追求することから逃れることはできないが、それでも究極的には勝利のために戦っている。それは何もきれいごとではなく、サッカービジネスという特殊性にフィットした末の思考である。試合に勝つためのマーケティング。

「プロサッカービジネスには3つの側面があると思っています。スポーツの側面、エンターテインメントの側面、そしてコミュニティとしての側面です。スポーツの部分はプロスポーツクラブとしての本質的なところで、エンタメについては新しい方が初めて見たり、また見たいと思ってもらうきっかけになりうるものです。そして、特徴的なのがコミュニティという部分です」

 前編で「一人ひとりに寄り添うデータ活用」について触れたが、コミュニティーを醸成し、活性化させるためにこそ、デジタルマーケティングが威力を発揮するのだ。

「コミュニティという部分は、すでに応援してくださっているファン・サポーターのみなさまとクラブとでこれまで長い時間をかけてつくってきた大きな関係性です。ではコミュニティという大きなくくりに対して、単一のコミュニケーションでいいのか、多様性が許容されるコミュニティをこれからもつくっていくなら、究極的には一人ひとりに即したコミュニケーションを図っていかなければならないんです。誰に対しても同じ、では通じない世界だと思っています」

 広く深く情報のやり取りを可能にするデジタルマーケティングが、クラブとファン・サポーターとでつくるコミュニティとのコミュニケーションの質を向上させる、ということなのだ。データは単にチケットを売るとかグッズを買ってもらうという一面的で限定的な道具なのではなく、川崎本部長の言葉を借りれば「立体的」な関係が深まっていくための、まさにカギになる。

強く、愛されるチームをめざして

 エンターテインメントの側面についても同様で、これもFC東京の中では川崎本部長のマーケティング本部が担当だ。例えば、試合前に流される選手紹介ムービーはファン・サポーターからかっこいいと好評だが、「2019年にXFLAGさんにマーケティングパートナーになっていただいて、演出にも力を入れることができています」という。

「おかげさまでご好評をいただいているのですが、実際のところあれがあってもなくてもピッチの上のサッカーは変わらないかもしれません。でも、試合に向けてファン・サポーターのワクワク感が高まれば、その熱がピッチ上の選手に伝わる。それが勝利への力の一部になれるかもしれません。そう信じて取り組んでいます」

 味の素スタジアムにおける『青赤パークsupported by XFLAG』でのイベントやグルメの充実、コロナ禍における『青赤パークオンラインsupported by XFLAG』へのチャレンジ、SNS、YouTubeなどなど、ほかにもエンタメ部分で広げて深く掘り下げるべき部分はたくさんあるという。「ピッチ上の試合が最重要だけれど、スタジアムに来てくれた人に、最低限の楽しさや思い出を担保するためにイベントやグルメは重要」。2021シーズンからも、そのおもてなしへの力の入れようは相当だ。

「2020シーズンはスタジアム起点のコミュニティが失われた年でした。でも、その中で継続してコミュニティをどうつくっていくか、どう楽しんでもらうか、という観点で、スタジアムではない場所でも結びつくことができるためのアイディアが出てきたのはいいことだったと思います。コロナ禍でチャレンジしてきたことはこれからも継続していきたい。リアルとオンラインを分断して考えるのではなく、融合していけばより良い活動ができると思います」

 オンラインイベントの拡充やデジタルマーケティングの充実など、川崎本部長とスタッフが2021シーズンからその先へ突き進むために「やりたいこと」は山ほどあるという。

「ファン・サポーターの皆さんの期待値を超え続けよう、我々にできない理由はない、というのがスタンスです。自分たちへの期待値は高いですよ。だからより良いアイディアをひねり出すのに苦しんでいるし、メンバーは大変だと思います」

 と川崎本部長は笑う。

 産みの苦しみは、デジタルであってもなくても同じだ。その苦しみを経て生まれてきたものの素晴らしさも、また。

 FC東京は「強く、愛されるチームをめざして」というコンセプトを掲げている。ピッチの上で、選手たちはその実現のために走り続ける。

「強く、も、愛される、も、チームだけが取り組むのではなく私たちビジネススタッフも同じです」と川崎本部長。

「FC東京のファン・サポーターはピッチ内外で、試合の前も後も楽しむことに長けていますが、それは来てくれる皆さんも私たちも本質の部分、つまりサッカーの部分を大事に考えていることが前提。だから、エンタメだってデジタルだって、私たちビジネススタッフも、試合で勝つためにやり続けますよ」

(連載終了)

【Profile】
川崎 渉 かわさき・わたる
東京フットボールクラブ株式会社 マーケティング本部本部長 兼 経営戦略室室長

画像: 写真◎F.C. TOKYO

写真◎F.C. TOKYO

 経営コンサルティング会社のA.T.カーニー株式会社で経営戦略やマーケティングのプロジェクトに従事、その後DeNA、複数のJリーグクラブを経て18年2月にFC東京へ。マーケティング本部長としてプロモーション部、CRM部、MD部を統括している。


This article is a sponsored article by
''.