日本サッカーの出来事を筆者の記憶とともに紹介する月イチ・コラム「Back in the Football Days」。12月編は、Jリーグのチャンピオンへの視線。最終節でFC東京を破って優勝した2019年の横浜F・マリノスを見て、初Vの記憶が蘇ってきた。

上写真=1995年12月6日のCS第2戦でV川崎を1-0で下したマリノスの松田(左)と井原(写真◎J.LEAGUE)

洗練された新方式

 完勝、だった。

 2019年J1リーグの最終節となる12月7日の第34節、横浜F・マリノスとFC東京の「頂上決戦」は、3-0というスコアだけではなく、まさに優勝しようとするチームとそうではないチームの違いを残酷なまでにくっきりと浮かび上がらせていた。

 もちろん東京も、最後まで優勝の可能性を残したシーズンの戦いぶりは立派なものだった。だが、1位と2位が最終戦で激突する「優勝決定戦」において、いざ同じピッチの上で並んで比べられてしまうと、分が悪かった。横浜FMがプレービジョン、ゲームマネジメント、選手の質と役割分担、チームとしての意図、技術、戦術、コンディション調整、出場停止や負傷で欠場した選手の代替策など、1年を通して成熟させてきたほとんどすべての要素で上回ったことを証明した。

 4点差をつけられなければ負けても優勝できる。そんな圧倒的優位な状況下で、前半だけで2得点(26分ティーラトン、44分エリキ)。ハーフタイムに東京のサポーターから「あと6点!」コールが湧き上がったのは、ファイティングポーズを失うなという青赤の選手に向けた熱いメッセージだった。だが、結果的には77分に遠藤渓太がもう1点を加えた横浜FMが、自慢の攻撃サッカーを満天下に知らしめるようにして、2019年のJリーグチャンピオンとしてうやうやしく玉座に腰を下ろした。

 2014年にシティフットボールグループ(CFG)に加わってから初めての優勝。22勝4分け8敗、68得点38失点、勝ち点70というピッチ上の現象だけではなく、経営面も含めて総合的に、CFGのノウハウやリソースや知見を投入した結果だったと言われる。ヨーロッパのフットボールクラブの手法を、現地に赴いて勉強して持ち帰る、あるいは業者に委託して仲介させる、という律儀なやり方は「旧式」となり、もっと効率的にビジネスとしてダイレクトにクラブの内部に取り込むという洗練された新方式によってJリーグの歴史を変えた――そんな風に分析されている。

 そういえば、このクラブが初めて頂点に立った1995年も「歴史を変えた優勝」だったはずだ。さっそく当時のサッカーマガジンと取材ノートを引っ張り出して、横浜マリノス(当時)の初優勝を振り返ってみることにした。

画像: 攻撃サッカー2019年シーズンのJ1王者となった横浜F・マリノス(写真◎J.LEAGUE)

攻撃サッカー2019年シーズンのJ1王者となった横浜F・マリノス(写真◎J.LEAGUE)

前期優勝は混乱の果てに

 当時、私はサッカーマガジンで横浜マリノスを担当していて、日本一への道のりを取材する幸せに恵まれた。たった3年目のプロリーグにあって「歴史を変えた」というのは少し大げさかもしれないが、93年、94年と連覇していたヴェルディ川崎(当時)を、ファーストステージとセカンドステージの勝者が対決するチャンピオンシップで直接叩いて(第1戦1-0・得点者=ビスコンティ、第2戦1-0・得点者=井原正巳)3連覇を阻止した上で、初の栄冠を手にしたことは当時、大きな意味を持っていた。

「2代目チャンピオン」となった横浜Mだが、そもそもは93年のJリーグ開幕から優勝候補の一つだった。J開幕前夜の日本サッカーリーグでは読売クラブ(V川崎の前身)と日産自動車(横浜Mの前身)で人気・実力とも二分していると言われていて、その流れをくんだ両チームがJリーグでも主役になると目されていたからだった。

 ところが、V川崎が順調に勝利を積み重ねていくのを横目に、横浜Mは93年が前期3位後期3位、94年が前期9位後期3位。チャンピオンシップにすら顔を出せなかった。

 3年目を迎えるに当たって、アルゼンチン人のホルヘ・ソラーリを監督に据えた。ところが、エースのラモン・ディアスとの不仲などが遠因となって、ファーストステージの26試合中16試合で指揮を執っただけでアルゼンチンに帰国。後継となった早野宏史の下で残り10試合を何とかトップで走り抜けるという混乱の優勝だった。苦しんだ分、早野も男泣きに泣いたのだが、セカンドステージに入ると減速。チャンピオンシップの出場権は得ていたので、照準を頂上決戦に合わせたチーム作りに移行させていった。

 セカンドステージはV川崎がベルマーレ平塚(現・湘南ベルマーレ)の追撃を振り切って優勝。こうして舞台は整った。


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