上写真=初戦以来の先発で2得点を挙げたほか、ポスト役としても圧巻のプレーを披露した大迫(写真◎福地和男)

■AFCアジアカップUAE2019 準決勝
 イラン 0-3 日本
 得点=(日)大迫勇也2、原口元気

 1月28日、アジアカップ2019UAE大会の準決勝が行なわれ、日本がイランを3-0で撃破し、決勝進出を決めた。優勝を果たした2011年大会以来、2大会ぶりのファイナル。5度目のアジア制覇に王手をかけた。

最強イランの上を行く最強日本

  前日会見で敵将カルロス・ケイロスが見せていた余裕の表情は後半途中から、すっかり消えていた。イランはここ5年間、アジア勢には公式戦で負け知らず(PK負けは記録上、引き分け扱い)。アジア最強と言われる強豪であり、絶対的な優勝候補だった。しかも今大会は中東のUAEで開催されている。スタンドはイランサポーターが圧倒的に多く、スタジアムの雰囲気も、まるでイランのホームゲーム。だが、その中でも日本は立ち上がりから森保監督が戦前に話していた通り、アグレッシブな姿勢を見せる。ボールの争奪戦に果敢に挑み、ボールを積極的に動かして、イランの機先を制していった。

 イランは今大会ここまで12得点で無失点。一方の日本はすべて1点差ゲームをものにして勝ち上がってきた。その戦いぶりは対照的だ。対戦相手の違いはあるものの、イランの強力な攻めを、ある程度日本が受ける展開でゲームが進むと予想されていた。しかし、いざフタを開けてみると、日本が積極的に前に出てボールを握り、攻め込んでいった。これまでの5試合とまるで違うその『姿勢』にイランが面食らったのか。別の顔を見せる日本に、余裕しゃくしゃくだったはずのイランはペースを乱されてしまう。
 ボールの争奪戦勝負で有利と見られていたイランだが、まとわりつくような日本のプレスを回避すべく、前半途中から空中戦に活路を見いだすようになった。ロングボールを交えながら攻め込み、ペースを強引につかもうと試みる。実際、ハーフタイムを迎えた際のデータでは、空中戦の成功率でイランの59・5%に対し、日本は40・5%。ハイボール勝負では日本が劣勢を強いられた。

 ただ、中盤を飛ばされてMF陣が繰り返し背走させられる中でも、日本は落ち着いていた。この日のCBコンビは実に頼もしく、吉田麻也、冨安健洋が落下地点にしっかりと入り、ことごとくボールを跳ね返していく。そして柴崎岳、遠藤航のドイスボランチもセカンドボールへ素早く反応し、次々とボールを回収して決定機を作らせなかった。GK権田修一が危険場所にパスを出し、相手にボールを取られてピンチを招く場面もあったが、権田がミスを取り返すべく鋭い反応でアズムンのシュートを弾き、事なきを得る。ミスで自滅さえしなければ、互角以上に戦えると選手も感じていたはずだ。これまでのゲームと違って、ボールも握っている。前半のボールポゼッションはイランの41・7%に対し、日本は58・3%。大きな手ごたえを得て、45分を終えた。

先制、追加、ダメ押しの「ス―パーゲーム」

 迎えた後半、均衡を破ったのは日本だった。56分、序盤から密集を抜け出すような重心の低いドリブルを何度も仕掛けていた南野拓実が、ゴールに向かって突き進む。だが、ボックスに入りかけたところで、背後から突っつかれ、倒された。イランの選手たちが南野のシミュレーションを主審にアピールする中、南野はすぐに立ち上がり、ボールを追った。そしてコーナー付近で追いつくと、中央へクロス。そこに飛び込んだのが、この試合で先発に復帰した大迫勇也だった。

「なかなかけがもあって出られない時間が続いたので、自分としては不甲斐ない気持ちが強くて、ピッチの中で示そうと思ってプレーしていました」(大迫/試合後のフラッシュインタビュー)

 日本は欲しかった先制点を最高の形で手に入れた。「粘り強く戦う」「あきらめずにつながりを持って戦う」。そんな指揮官の考えが凝縮したようなプレーから生まれた先制ゴール。この1点は、日本をさらにアグレッシブにさせ、イランを激しく強引なプレーに走らせた。

 日本は少ないタッチでボールを動かし、相手の攻め気を削いでいく。同時に相手ボールになれば、果敢にプレスを仕掛けた。そして67分には吉田麻也が「大きかった」と話した2点目が生まれる。
 左サイドで南野と大迫が相手ボールホルダーにプレスを仕掛け、パスミスを誘う。大迫が拾って南野にヒールパスを送ると、南野はエリアに進入してクロスを上げた。息もつかせぬ連続攻撃。後手を踏んだ相手DFがたまらずクロスブロックしようとスライディングしたが、ボールは手に当たり、日本がPKを獲得した。

 VARを経て、あらためてPK判定が下ると、大迫がこの日2点目となるゴールをきっちり決める。日本が勝利をぐっと引き寄せる得点だった。この時点でイランの選手たちは完全に気持ちが切れてしまう。もはや敵将に余裕の表情はなかった。

 さらに90+2分には、ダメ押しとなる3点目を原口元気が決める。柴崎がボールを奪い、南野を経由したボールを受け取ると、あのロシアW杯のベルギー戦とは逆の左サイドからゴールを華麗に撃ちに抜いた。

「1点取れたことが大きかったし、そこからのゲーム運びはすごくうまくいって、2点目を取って、イランが2点目のあと、切れましたけど、そこからも集中して3点目を取れた。あまり、攻撃に関われていなかったので、最後1本くらいリスクを冒して、と思ったらうまくいって。昔だったらあれだけ関われていなかったら、イライラした部分もあったと思うけど、冷静にプレーできていたので、最後にああやって結果が出たのもメンタル的に成長した部分かな」(原口)

 先制、追加、ダメ押しとゴールを重ねる完ぺきなゲーム運び。そして集中の切れたイランの挑発や抗議、ラフプレーにも動じず、試合をきっちりクローズさせた。アジア最強国と言われるイランに3-0で快勝。そのスコアは衝撃をもって、現地でも報じられることとなった。

「随所に森保監督体制になってから続けてきたことが出た試合だったのではないかなと。チーム一人ひとりの意識もよかったですし、戦前には五分五分の試合、もしくはフィジカルで押される試合だったりとか、いろんな予想がされる中で、まあいい意味で期待を裏切った試合になったかと思います」

 中盤でアグレッシブに戦い、ボールを配り、走り続けた柴崎はそう言って試合を振り返った。

「日本がアジアの中で強豪でいる証と言いますか。W杯でもスペインとか、本当に強いチームってリーグ戦より決勝トーナメントに合わせてくるんですよね。リーグ戦は徐々に入っていって、どんどん上げていく。これをアジアカップで日本代表ができるようになってきているっていうのは、本当の強さっていう部分で日本代表、成長していると感じます」

 ミックスゾーンで開口一番、「スーパーゲームでしょう」と胸を張った長友は、こんなふうに日本代表の成長に触れた。

 1点差のタフなゲームを5つ乗り越え、そのたびに成長してきた日本がついに決勝にたどり着いた。王座奪還を目指す戦いは、2月1日にフィナーレを迎える。

「楽しくやるだけ。これに満足せずプレーの質を上げたい。とにかく次も勝ってアジアチャンピオンになりたい」

 最終ラインを統率し、イランの攻撃を跳ね返し続けたキャプテンの吉田麻也は言った。そして、前日会見でこのチームを「未完成」と表現した森保監督は、イラン戦の快勝劇について「これまでの5試合の内容と大きく異なるのでは?」という質問に答える形で、次のように述べている。

「(チームが)変わったこと、変わらなかったこと、両方あると思いますが、基本的にはあまり変わらなかったと思っています。それは何か言うと、選手たちが相手に敬意を払う、相手を知った上で、我々が持てる力を最大限発揮していこうということ、そして個であってチームとしても、持てる力をすべて発揮しようというところは変わらなかった。選手たちが今日の試合で勝利にこだわり、戦い抜いてくれたことも(これまで)変わらなかったと思う。
 そして何よりも、選手が今日、考えて意識を持って臨んでくれた。バトルのところでしっかりと戦う、セカンドボールを粘り強く拾って守備をする、攻撃についてはプレッシャーがある中でも後ろからボールをつないで前線に配給してくれたことで、良い形が生まれたと思います。
 今日のようなシビレる試合の中でなかなかボールを握るということは難しいと思いましたが、選手たちがそこは勇気を持ってチャレンジしてくれました」

 1戦1戦、着実に戦い方の幅を広げ、経験を重ねてきた日本。最強イランを破り、今、アジア制覇に王手をかけた。

取材◎佐藤景 写真◎福地和男


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