“神奈川ダービー”は1-1のドローに終わった。試合の均衡が破れたのは後半。58分に家長昭博のゴールで川崎Fが先制する。しかし、ラグビーW杯の改修のために、この日が今季の「日産スタジアム開幕戦」となった横浜FMも、3分後に同点に追いつく。CKの場面で中澤佑二がヘディングシュートを叩き込んだ。その後は両者とも何度も好機を得たが、ゴールネットを揺らすことはできず。勝ち点1を分け合った。

■2018年4月8日 J1リーグ第6節
横浜FM 1-1 川崎F
得点者:(横)中澤佑二
    (川)家長昭博

2人にしか分からないアイコンタクト

2人だけにしか分からない、奇妙な感覚があったようだ。横浜FMのGK飯倉大樹は“再会”を楽しんでいた。

年齢は4つ離れているが、同じ横浜FMユース出身。トップ昇格後に一度レンタル移籍を経験しているところも一緒だ。プロのピッチにチームメイトとして立ったのは、今から9年前のこと。その後輩と、初めて対戦チームの相手として対峙した。

「長く一緒にやってきましたからね」。川崎Fのユニフォームを着た齋藤学について語るとき、自然と顔がほころんだ。

昨季は横浜FMの背番号10を背負ってキャプテンを務めた齋藤が、かつてのホームスタジアムで出場すれば大ブーイングで迎えられることは確実だった。そして、齋藤がピッチに入ったのは、残り15分を切った同点での場面。日産スタジアムに緊張が走るその瞬間、ゴールを守る飯倉の頭には、周囲とは違う思いがあった。

「パスを出してくるかな、それともカットインして打ってくるのかな」。練習では、何度も対峙してきた相手だ。リアルにイメージするだけの、十分な時間を共有してきた。

「そのとき」は、アディショナルタイムにやってきた。川崎F陣内でボールを持った齋藤が、一気にドリブルで持ち上がってきた。飯倉から見て右サイドへと流れていった齋藤が送ったボールは、シュートだったか、クロスだったか。いずれにせよ枠をとらえたボールを、飯倉は腕一本で弾き出した。「あいつもニヤニヤしていて。『狙ってないんだろ?』とか、アイコンタクトして」。そう話す飯倉も、頬をゆるめていた。

その3分後には、またも齋藤が仕掛けてきた。サイドから中央に送ったボールは、今回こそ間違いなくラストパス。抜け出した大久保嘉人に1トラップからシュートを打たれたが、この大ピンチは飯倉がビッグセーブで守り切った。後輩が、いろいろと想像をかきたててくれたおかげかもしれない。緊張感ある神奈川ダービーは、勝ち点を分け合って終わった。

今季の横浜FMは、極端なほどにラインを高く保つ。その広範なスペースをカバーするため、ボックスを飛び出して、これまた極端に高いポジションを取ることが飯倉には求められている。今までにない位置取りに「こんなところにいるのか」と、自分で不思議な感覚に陥るほどに。

だが、これまでにない刺激に、「充実感がある。そうすると、シュートストップもカバーリングもうまくなっていくと思う」。J1での200試合出場が見えてきたGKは、さらなる成長を予感している。

川崎Fとの次のリーグ戦での対戦は、8月5日の第20節。お互い成長していれば、違う刺激を感じながら、かわいい後輩ともっと長く“会話”できることだろう。

文◎杉山 孝 写真◎J.LEAGUE PHOTOS


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