いま、川崎フロンターレU-18に大きな注目が集まっている。アカデミーから現在の日本代表選手を輩出し、3人がトップチーム昇格、今年のU-18が快進撃を続けているからだ。長橋康弘U-18監督と中村憲剛FROが語り合う、アカデミーのいまとこれから。

もう言うことがなくなって

長橋監督 私たちアカデミーの現場では、トップがタイトルを取って強くなっていくと、そこに追いついていかなければならないというプレッシャーを感じていました。でも、結果だけではなくて選手を育てることも大切なことです。

 そのためにいま、いろいろなタイミングが重なっていることを感じます。例えば去年はすごくいい選手が揃っていて、プリンスリーグからプレミアリーグに昇格することができました。その代を、ちょうど引退した憲剛さんが見てくれた。「止める蹴る」という言葉は聞くけれど、どうすれば止まっているのか、という基準を示してくれました。それが分かればあとは取り組むだけです。何も言わずに結果がついてきた、という感じなんですよ。

中村FRO 指導者として一番楽しいのが、選手が伸びていくのを見ることですよね。だからこそ、自分が何をどの程度伝えるのか、その責任はすごく重いなと感じていました。情報が少なければ本質は伝わらないし、詰め込みすぎるとそれしかできなくなります。1回で前を向くとか、中間ポジションに立つとか、出したら動くとか、プレスに行くタイミングとか、僕が必要だと思う個人戦術は去年の最初の方にはかなり言っていたんですけど、選手たちが覚えていってくれたので、途中からは言うことがなくなっちゃって。いまは「ナ〜イス!」とか「前向け〜」ぐらいしか言っていないです(苦笑)。

――アカデミーではヘッドオブコーチングに高田栄二さん、U-18の長橋監督、久野智昭コーチ、佐原秀樹コーチ、浦上壮史GKコーチ、U-15の玉置晴一監督、今野章コーチ、U-11の矢島卓郎コーチと、かつて等々力陸上競技場で活躍したOBの皆さんがいらっしゃいます。フロントにも竹内弘明強化本部長、伊藤宏樹強化部長、向島建スカウト、田坂祐介スカウト、トップチームでも鬼木達監督、寺田周平コーチ、吉田勇樹コーチがOBです。トップとの関係性、一体感はこれからどう発展していくでしょう。

長橋監督 発展、というよりは、奇跡が起きている感じがするんですよね。ここまでトップと近くでやらせていただいて、トレーニング参加もすぐに声をかけていただいています。これを継続してもらいたいと思っています。

中村FRO 「FRO(Frontale Relations Organizer)」はクラブにとっては初めてできた役割でもありましたから、強化部には遠慮なくかなり言いましたからね。僕は去年からアカデミーをちゃんと見始めて、選手たちはできるから、(トップに)参加させてくれ、と。それこそ宏樹さん(伊藤宏樹強化部長)には言い続けました。昔から宏樹さんには何でも言えますから(笑)。

 U-18の子がトップに練習に来てU-18に戻ると選手たちの意識やプレーが変わると長橋監督からも聞いていたし、僕も練習や試合を見て同じことを感じました。だからそれを宏樹さんや竹内さん(強化本部長)に伝えました。トップの麻生グラウンドへ見学に行けば必ずU-18の話をして帰りますし、U-18の練習に来たときにはまた麻生でした話を伝えます。

 僕の最終的な思いは、トップをアカデミー出身だけで占められるくらいのクオリティを下部組織が持つこと。そのためにも、トップが「見える」ようにすることが必要なんです。去年は五十嵐太陽が昇格しましたが、それを見た今年の3年生が刺激を受けて3人が昇格することになりました。それを見て、いまの2年生が「俺たちはもっと」という気持ちになってほしいし、上がれなくても大学に行って(脇坂)泰斗や(三笘)薫たちのように戻ってくればいい(脇坂は阪南大、三笘は筑波大経由で加入)。アカデミーをそういう場所にしたいんです。

――いま話に出た三笘選手のほかにも、板倉滉選手、田中碧選手、久保建英選手と、アカデミー出身選手が日本代表でも活躍したことで、このアカデミーもものすごく注目を浴びています。

長橋監督 そこもまさに「タイミング」ですよね。クラブから巣立った選手がああやって活躍してくれると、アカデミーの選手の意識もまったく違ってきます。だから実は、昔より言うことがなくなってきたんですよ。

中村FRO クラブの一体感というのは僕が一番感じるかもしれません。どこのカテゴリーに行っても誰かいるんで、良い意味で気を使わなくて済みます(笑)。監督もコーチもトレーナーも現役時代にお世話になったみなさんですから、気兼ねなくいろいろな話ができる。

 そうやっていまはどんどん川崎のスタイルを濃くしていく段階ではないかと感じています。トップもここ数年は勝てていて、これを長く続けていく必要がありますが、勝っているいまだからこそトップ、U-18、U-15、U-12をしっかりとした哲学の下でつなげたい。風間八宏さんが作り上げた「止める蹴る」に加えて、またもう一つの軸が積み上がってきている感覚です。引退したことで、僕自身がアカデミーのことをより知ったからこそ、そう思うのかもしれませんね。