Uー17日本代表は7月2日、タイで開催された『AFC U17アジアカップ2023』で韓国代表を3ー0で破り、見事、大会連覇&史上最多4度目の優勝を成し遂げた。中2日という厳しい日程を乗り越え、いかにしてチームはアジアの頂点に立ったのか。現地でチームを追った川端暁彦氏がリポートする。

上写真=森山監督が選手に戦うことを求め、選手がそれに応えて日本はアジアの頂点に立った(写真◎Getty Images)

デュエルの勝率で相手を上回る

 決勝で見事な2ゴールを沈め、大会MVPと得点王をダブル受賞したFW名和田我空(神村学園高等部)。そんな殊勲の男に「このチームの強さってどういうところにあると思う?」と聞いてみたところ、間髪入れずにこんな答えが返ってきた。

「守備の頑張りだと思います!」

 チームで共有されているメンタリティーを象徴するような言葉だった。

「ボールを持ったら上手い選手はかなり多くいる」

 森山佳郎監督はこの年代の選手たちをそう評してきた。裏を返せば、ボールを持たないとき、上手くいかないときのプレーに課題があるということだ。そして「ボールを奪い返せるチームでないと世界では厳しい」という問題意識も持っていた。

「欧州に行った日本人選手がみんな同じことを言ってくる。『ボールを奪う』という部分の意識が違う、と。日本は抜かれなければいいという守備になりがちだけど、そうじゃない。『奪う』守備を個人でもグループでも、この年代から変えていかないといけない」(森山監督)

 目敏い人は気付いたようだが、このチームのCBは「待ち」ではなく、「アタック」を選択することが非常に多い。それを求められているからだ。中盤まで引いたFWを追撃して潰すシーンは珍しくない。それは韓国との決勝でも観られた現象だった。

 当然、裏目に出ることもあるのだが、指揮官は「そこを求めないと成長もない」とアクティブな守備をするように指導してきた。

 右サイドハーフを主に務めたMF佐藤龍之介(FC東京U-18)は「ボールを奪えたかどうか」を一つの指標として口にするし、テクニック自慢で「守備が課題」と自ら言い出す選手ばかりだったボランチ陣も、森山監督の薫陶を受ける中で「自分たちボランチがボールを奪えるかどうかだと思っている」(MF中島洋太朗=広島ユース)といった言葉を自然と話すようになった。

 実際、韓国との決勝ではデュエル勝率で20%近い差をつけて日本が上回っているが、これは一過性の現象ではない。イランとの準決勝でも18%差、オーストラリアとの準々決勝でも15%余りの差をつけて、日本のデュエル勝率が上回っている。

 そうした勝負を避けてこその日本サッカーという従来型のイメージは、現在のA代表選手たちがそうであるように、この年代でも確実に覆されつつある。ボールを奪える、戦える選手であることが、「世界で勝っていくために獲得しないといけないベース」(森山監督)という共有された感覚がある。

 森山監督のアプローチがユニークなのは元から守備が売りで、タフに戦うのが好きな選手を重用することでそうした精神性をチームに根付かせたというわけではない点だ。むしろ逆のタイプの「上手い」選手たちに泥の匂いを付けていったことだろう。

「上手いだけではダメだけれど、上手くない選手もやっぱり上で通用しない。両方が求められる時代だと思っているし、A代表へ繋げていくためにもそこは意識している」

 MFに限った話ではない。例えばFWの道脇豊(熊本)も体を張って戦い、守備のタスクをしっかりこなす選手だが、フィジカルオンリーというタイプでは全くない。足技も確かで個人戦術にも長けたストライカーだ。名和田も派手な技巧やセンスを注目されがちだが、そのプレーは一貫して献身的であり、球際での闘争心も旺盛だ。

 他に目を移せば、今大会は1試合の出場にとどまった1年生MF山口豪太(昌平高校)はスペシャルな資質を持ったテクニシャンだが、本人が「他の選手と比べて守備の強度が足りていない」と語るように、先発を務めるにはまだこのチームの基準に達していない。ただ、それでもメンバーに入れているのは、もちろん切り札として使えるシチュエーションがあると想定していたからであり、同時にこの代表活動を未来のA代表を意識して「タフに戦える上手い選手」を生み出すための過程と捉えているからだ。

 過程という意味で言うと、そもそもアジア制覇も過程でしかない。「世界大会で輝くためにはまだまだ足りない」と強調した指揮官は、選手たちにさらなるレベルアップを促しつつ、新戦力の発掘を含めて大会への準備を進めていく考えだ。

 優勝直後、「世界大会へ出るからには優勝を狙いたい」と語ったのは名和田だった。いまはまだ夢物語に聞こえる言葉だが、半年後には少し違った響きに聞こえるかもしれない。

取材・文◎川端暁彦