リーズ・ユナイテッドに所属する田中碧はシーズン序盤、出場機会が限られ、苦しい時間を過ごしていた。しかし、終盤を迎えて徐々に存在感を増してきた。紆余曲折あった田中の今シーズンここまでの歩みと、現地での評価を取材記者が綴る。

W杯後に戻って来てくれれば…

FAカップで改めて自らの価値を示した田中。残りのリーグ戦でも活躍が期待される(写真◎Getty Images)

 だが結果は、今季2度目の監督交代で揺れる相手を倒し損ねたチーム全体と同様、及第点止まりの出来に終わった。彼の紙上採点も、10点満点中6点。滑り出しは快調かに思われた。キックオフから19秒で、ボール奪取からカウンターの起点となり、リーズが相手ペナルティエリア付近でFKを手にしている。しかし、自ら蹴ったFKは、大きくバーの上を越える“無駄遣い”となった。

 前半23分に先制を許すと、自軍ボックス内で俯く田中の姿があった。ヘディングでネットを揺らしたのは、リーズの2ボランチが立ち上がりから捕まえられずにいた敵のトップ下、エンソ・フェルナンデスだった。

 あわや2失点目という場面は、その7分後。自軍エリア手前で受けた横パスの処理に手間取る間に、相手ボランチのロメオ・ラビアに詰め寄られてボールを失ったが、敵の枠外シュートで事なきを得た。

 後半、4バックに変更したリーズは巻き返しの兆しを見せる。田中にも、同20分に得点機が到来。距離不足のクリアボールが、打ちごろの高さと速度で落ちてきたように見えたが、右足で捉え損ねたボールは枠外へ。ボックス内でボレーに失敗した当人は、天を仰いで悔いていた。

 試合後、記者席近くのリーズサポーター席に残っていた青年に、田中の印象を尋ねると、ロゴ入りの黄色いバケットハットをかぶった彼は言った。

「自信の問題なのかな、タナカは。ミスがあった試合では、悪くなる一方。今日も、そのパターンだった気がする。気にせず、自分らしいプレーをしてくれれば十分なのに。それだけの能力があるんだから」

 その意味では、プレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれた、E・フェルナンデスとは好対照だったかもしれない。チェルシーのアルゼンチン代表MFは、良くも悪くもふてぶてしい。今夏のレアル・マドリード移籍をほのめかすような発言で、クラブから2試合出場停止を言い渡されたのは準々決勝の直前。だが、処分明け3戦目の準決勝では、ゴールを決めると胸のエンブムを指差して忠誠を示唆。後半、あの手この手で時計の針を進めたチェルシーが、コーチから昇格して暫定指揮を執るカラム・マクファーレンの指示を必要とした際には、当日のキャプテンとして、GKロベルト・サンチェスに時間稼ぎで倒れるように合図を送ってもいた。

 目に余る遅延行為に、アンパドゥが相手ベンチ前で文句をつけていた際、田中は自軍ベンチ脇で水を飲んでいた。試合後、会見で指揮官も、ほぼ確定しているプレミアでのサバイバルへと意識を切り替えてサバサバしていたが、「リーグ戦に集中したい」と言いながら足を進めた田中のミックスゾーン素通りも、取材者としては残念であるものの、それでいい。ただ田中が、細かいことは気にせずに自信を持って残る4試合を戦い終え、W杯でも自信を深めて、来季もプレミアに戻ってきてくれるのであれば――。

取材・文◎山中忍[現地]