上写真=10日の練習では限定的ながら全体練習に参加していた遠藤航(写真◎JMPA松本輝一)
バトンを託された新主将は板倉滉
アメリカ・ナッシュビルでの練習を前に、日本代表に激震が走った。ミーティングを前に、遠藤キャプテンの離脱が報告されたのだ。
さらにSNSを通じて代表引退を表明するという衝撃のニュースが重なり、メディア対応に現れた選手たちは驚きと悲しみが入り混じった複雑な表情を見せた。
前回のカタールW杯以降、3年半以上にわたり精神的支柱としてもチームを牽引し続けたキャプテンの不在がチームに与える影響は当然ながら大きい。久保建英が「みんなびっくりしていた。個人としてもチームとしても助けられてばかりだった」と感謝を口にすれば、小川航基も「頭が真っ白になった。自分の全てを懸けてきた大会を去るというのは、なんとも悔しく残念なこと」と沈痛な面持ちで語った。
また、遠藤と前夜に言葉をかわしていた渡辺剛は「昨夜会ったときは何も言わなかったので。事実を知って涙がこぼれた」と明かし、長友佑都も「日の丸を背負う重圧と苦悩は彼にしか分からない。本当に無念で心が痛い」と、かつての戦友の心情を慮った。
それでも、初戦を3日後に控えたチームは、かつてない逆境をすぐさま「覚悟」へと昇華させる必要がある。急きょ、新キャプテンに指名されたのはDF板倉滉だった。
板倉は朝食後、出発直前のわずかな時間に遠藤の部屋を直接訪れたという。「航くん自身が一番悔しいはず。でも、ドシッとしていた」という偉大な前キャプテンに対し、「責任と覚悟を持って頑張ります」と決意を伝えている。一方で遠藤からは「みんなによろしく頼む」とバトンを託された。この日の練習前には板倉がチーム全員の前で遠藤の思いを代弁したという。
遠藤と同じくボランチを務める田中碧は「残念だけど、不穏な空気を作る必要はない。やるべきことははっきりしている」と語り、同じく中盤でチームを司る鎌田大地も「18歳の頃から知っている彼の姿勢や人柄はみんなが見てきたもの。今は自分のプレーに100パーセントフォーカスする」と、プロとしての集中力を研ぎ澄ました。遠藤の離脱により「ボランチでプレーする」役割がより明確になったという瀬古歩夢も前を向いた。
また、守護神の鈴木彩艶は「ピッチの中で背中を叩いて『よくやった』と声をかけてくれた航くんに助けられてきた。これからは残された僕たちがピッチ内から支える」と決意を新たにし、堂安律は「(新キャプテンの)板倉滉は愛されている。滉一人に責任を押し付けるチームではないので、全員で助け合い、結果で(遠藤に)託して良かったと思わせたい」と責任を口にした。
この難しい局面において、ベテランも若手も、一様にチームのために戦う決意を口にしている。サポートプレーヤーとして帯同する吉田麻也は「チームの細かい亀裂を見逃さないために自分がいる。アクシデントもポジティブに変えるマインドセットが必要」と、自の役割を強調した。長友も「2010年大会で長谷部(誠)にキャプテンが代わったとき、一丸となって良い方向に行った経験がある。泥臭く戦う覚悟は決まった」と、過去の経験を引き合いに出してチームを鼓舞した。
遠藤に代わって追加招集されたのは、前回大会も追加でメンバーに滑り込んだ町野修斗だ。菅原由勢は「彼は落選の悔しさからいい準備をしてくれていたはず。すーっとポジティブな風を引き込んでくれる」と期待を寄せ、最年少の後藤啓介も「全員がショッキングな出来事の後だからこそ、より一層気を引き締め、航くんの4年間の思いを背負ってプレーしなければいけない」と言葉に力を込めた。
実際、この日の練習も強度が高く、充実内容だったと選手たちは振り返っていた。塩貝健人は「いい方向に向かっていると感じるほどのギラギラ感があった」と証言し、ピッチ上では激しいインテンシティーが保たれ、誰もが「俺がやってやる」という強い思いを発揮していたようだ。
「ピッチで優勝することがすべて」と菅原が語ったように、日本代表が目指す頂点への目標はまったくブレていない。キャプテンの離脱という試練を、チームを一つにする究極のエネルギーへと変換することが今、求められている。激震を乗り越え、かつてないほどの結束を誇る「監督いらずの集団」(森保監督)が、3日後、運命の初戦オランダ戦に臨む。
取材◎佐藤景【現地】