上写真=メキシコ代表戦で先発すると目されている日本代表のFW上田綺世(写真◎青山知雄)
むしろ量自体が質なのかもしれない
「今の選手はボールを蹴っている回数が足りない」
そう言ったのは先月10日に亡くなった日本史上最高のストライカー、釜本邦茂さんだった。
日本サッカー界は半世紀以上もの間、メキシコ五輪で得点王になり、銅メダル獲得の立役者になった釜本さんの後継者を求めてきた。
だが、いまだ釜本二世は現れていない。
そんな状況を踏まえて、釜本さん自身に「なぜ自分に匹敵するようなストライカーが現れないのか」とたずねたことがある。その答えが、冒頭の言葉だった。
しかし今、日本代表の9番を背負うストライカーはこう言ってのける。メキシコ戦前日(現地5日)のトレーニング終了後、自身のシュートが強烈である理由を問われたときだった。
「僕も(理由は)わからないですけど、小さい頃から打っている本数が違うんじゃないですか。もうずっとシュートは打ってきたし、多分、誰よりも打っているから、本数は。サッカーをやってきた歴で考えても、たぶん周りの選手と、生涯打っている本数が違う気がします」
アメリカ遠征中の日本代表のトレーニングで、上田は連日、印象的なシュートを放っていた。圧倒的なスピードと強さに、練習でゴールマウスに立つ鈴木彩艶やかつて鹿島でともにプレーした早川友基が驚き、他に類を見ないと称賛するほどの威力だった。
所属するフェイエノールトでも3戦4発と絶好調。誰よりもシュートを打ってきたことが今、大きな実を結ぼうとしているのかもしれない。
「例えば、俺が誰か小学生に効果的なシュート練習を教えても、それで僕のシュートが手に入るわけじゃない。色々やった上で自分の中でその質が見つかって、色んな角度とか打ち方、色んなことをやることによってやっぱり筋肉がついて、もちろん土台があってこそなんで。やっぱり量って自分でやっていくもので、むしろその量自体が質なのかもしれないし。まずやらないと話にならないし、続けることですよね。
質ばっかり追っていても結局、質より量をやっているやつには勝てない。そこをまず考える必要がないんじゃないかなと思う」
質を凌駕するのが、量。そしてその量こそが上田と他のストライカーとの違いを生んでいる。
量に自信を持つ選手が今の日本代表にもしっかりいて、その選手が自身が東京五輪前から期待していたストライカーだと知ったら、釜本さんはなんと言っただろうかーー。
文◎佐藤景