10月15日の北中米ワールドカップのアジア最終予選第4戦で、日本はオーストラリアに1-1で引き分けた。同点ゴールはオウンゴールだったが、それを導いたのは左サイドを軽やかに突破した中村敬斗のドリブル。「三笘薫✕中村敬斗」という左サイドの組み合わせに見えた可能性とは。

上写真=中村敬斗が左サイドを軽やかに突破して、同点ゴールとなるオウンゴールを導いた(写真◎兼村竜介)

■2024年10月15日 北中米W杯・アジア最終予選4節(観衆58,730人@埼玉ス)
日本 1-1 オーストラリア
得点:(日)オウンゴール
   (オ)オウンゴール

「点を取って逆転してこい」

 中村敬斗がウイングバックで、三笘薫がシャドー。ワールドカップ最終予選のオーストラリア戦で試合途中から森保一監督が組み上げた左サイドだ。技巧派ドリブラーを2人並べるとは、なかなか蠱惑的な組み合わせである。

 58分にオウンゴールで先行されたあとの70分からだったから、狙いは明白。森保監督が中村へ送った「点を取って逆転してこい」の指示が、このダブルドリブラーシステムの最大の目的だと分かる。

 それが結果に結びついたのが76分のこと。左ワイドで中村が受け、その内側にいた三笘の外を回るようにして持ち運ぶと、立ちはだかったDFの重心を軽やかなステップで崩して腰くだけのようにして縦に出て、もう一つ持ってゴールラインぎりぎりまで迫ってから左足インサイドで強くたたいて折り返すと、カバーに入ったDFが上田綺世の前に出した足に当たってオウンゴール。

「カウンターの場面でトップスピードに乗った状態でクロスを入れることができるのは、フランスリーグで相手選手のほとんどがより身体能力の高い中でやっていて、そういう日常で個の能力が高められているから。それが成長してる理由かなって思います」

 自信あるプレーをストレートに出した心地良さがある。

 ところでこの同点のシーンで最初に中村が前に出たとき、内側にいた三笘は相手の前にうまく体を入れてブロックし、中村に進むべき花道を示している。「自分が外に張っているときに自分をフリーにしてくれるような動きをしてくれたので、いい形でボールを受けることができました」と中村は陰のサポートに感謝した。

「中村選手のやりたいことは分かってますから」と、当の三笘は涼しい顔である。

ほとんど練習していない

 三笘はサウジアラビア戦で63分から前田大然に、オーストラリア戦では70分から中村にウイングバックを任せて、シャドーにポジションを移している。オーストラリア戦では「中村選手がシャドーをやってもいいんですけどね」と笑わせたが、「僕に疲労もあったと思いますし、そこで彼が上下動してくれて作ったチャンスは多かったので、彼の勢いに乗った形でした」と3歳下のウインガーを称えた。

 ほかにも、三笘がインサイドでポイントになって、中村のドリブルを引き出すようにボールを届ける場面もあった。逆に中村が持ったときに三笘がポケットを取る動きも出た。ウイング同士だからこそ分かり合える感覚が、スムーズな連係を現出させている。

 ただ驚きなのは、三笘が言うには、この組み合わせではほとんど練習していないということだ。

「ほとんどやってはいないですけど、彼のやりたいことは分かりますし、みんなが疲労のある中で途中から入ってきた選手には縦の怖さがあると思うんです。そこを使おうという空気はチームとしてもありましたし、彼のところでチャンスになって、本当に助けてくれたと思います」

 そんな多彩なアドリブのおかげで、ひとまず勝ち点1は確保することはできた。ただ、この最終予選では両ウイングバックにアタッカーを並べる「攻撃的3バック」が爆発力を見せて、ゴールラッシュが続いてきたのに、この日はオウンゴールの1点止まり。5バックと中盤の4人でブロックを組むオーストラリアに苦しめられたのは確かだ。

 そんな「日本シフト」を破る可能性を見せたのがこのコンビなのだが、3バックの左にそびえ立ち、彼らを後ろから見守った町田浩樹の実感も興味深い。

2次攻撃、3次攻撃を仕掛ける

 同じサイドにドリブラーを並べるということは、守備のリスクはある程度、町田が引き受けることになる。

「やっぱり奪われたときのリスクマネジメントですよね。そこで僕が下がり過ぎないところは意識していました」

 奪われたボールはカウンターの種になるから、つぶしておかなければならない。

「彼らがクロスを上げたあとだったり、そのセカンドボールを自分が拾って2次攻撃、3次攻撃を仕掛けることは意識してやっていました」

 自分のサイドで押し込んだのであれば、その分、DFも前にポジションを取る必要がある。その微調整の感覚に優れていて、サウジアラビア戦でもオーストラリア戦でも拾っては前へ、拾っては前へと、相手にボディーブローを打ち込むかのように何度も供給していった。それができる選手がいるからこそ、ダブルドリブラーも威力を発揮することができるわけで、むしろ、町田ありきの「進化形」だと言ってしまってもいいのかもしれない。

 とはいえ、ホームでドローという結果は喜ばしいことではない。

「揺さぶるのか、もっと時間を作ってサイドで攻撃していくのか。クロスでいくのか、その共通認識がまだもう少し足りないから、話し合っていきたい」

 三笘は攻撃の不完全さをそう指摘し、自らが狙ったカットインからのシュートが相手にブロックされたことも「あそこで当ててるようではまだまだ。もう少し冷静さが必要かなと思います」と自己解析に余念がない。

 町田も同様だ。攻撃に苦心したことで、課題解決に目が向くのは自然なこと。

「相手が身長の高い選手を並べてくると難しいところもあると思いますけど、もう少し中を閉めさせて、そこからサイドで勝負させたかったと個人的には思います。相手も中を閉めてから外にいくとなると苦しいと思うので、もう少し(南野)拓実くんやタケ(久保建英)、(鎌田)大地くんのシャドーのところにつけて、そこからサイドに振る回数を増やしたかった」

 ここからワールドカップ最終予選は、11月15日のインドネシア戦、19日の中国戦へと続いていく。このアウェー2連戦は一つのヤマ場だ。ここで左サイドの攻撃の出力をどこまで高めることができるか、注目である。