批判を受けるチームの中で異彩を放つガエディ
『チーム・メリ.com』ではアタッカー陣のみならず、他の多くの選手たちにも痛烈な批判を浴びせている。例えばMFサマン・ゴッドスには「時折、公園を散歩しているかのようだった」、またMFサイード・エザトラヒには「常にチームの弱点だが、火力に欠ける相手を前にしても説得力がない」といった厳しい言葉が突きつけられた。
そんな中で希望となりうる存在は、4-2-3-1の2列目左サイドで異彩を放ったFWメフディ・ガエディだ。これまでイラン代表で重要な選手とは言えなかった25歳のウィンガーは、今大会初戦から先発に抜てきされると自慢のドリブルで度々サイドを切り裂いて大きなチャンスに繋げてきた。
細かいフェイントで相手の重心を外し、一気にスピードを上げてディフェンスを置き去りにするドリブルの破壊力はアジアでも屈指だろう。グループステージでは第1戦と第2戦で2試合連続ゴールも記録し、イラン代表の勝ち上がりに大きく貢献している。
大会直前のインドネシア代表との強化試合でも2得点を挙げ、今年に入ってから5試合に出場して4得点。自動車事故での脾臓破裂という大怪我から復活を遂げたガエディは、今回のアジアカップでついに大ブレイクを果たした。身長166センチという小柄な体に莫大なエネルギーを秘めたニューヒーローは、ドリブルの特徴こそ微妙に違うが、切れ味は “イランの三笘薫”と言っても差し支えない。
ガエディに力を発揮させないようにするには、何よりボールを渡さないことが重要だ。日本代表としては前線からのハイプレスでイラン代表のビルドアップを寸断したい。サイドで“イランの三笘”にスペースを与えることがいかに危険かは、本物の三笘を擁するサムライブルーの面々が最もよく理解しているはずだ。
イラン代表はGKアリレザ・ベイランバンドを起点に後方から丁寧にビルドアップしようとするが、これまでの試合では正確さを欠いて自陣でボールを失って危険なカウンターを食らう場面が多々あった。中盤に縦パスを入れるタイミングで全体の距離感が悪く、無理な体勢で前を向こうとして孤立した末にボールを奪われるというのがパターンになってしまっている。
日本代表は決勝トーナメント1回戦でも採用していたような4-3-3で臨み、センターバックにボールを持たせてロングパスを蹴らせるか、中盤にボールが入った瞬間にインサイドハーフが相手ボランチを各個撃破するような形を作れるとよいだろう。
大黒柱の出場停止、ディフェンスラインの負傷者、そして怠慢プレーといくつも不安要素を抱えるイラン代表だが、地力のあるチームであることは間違いない。選手個々のクオリティは高く、乗りに乗っているニューヒーローも質実剛健で経験豊富なベテランも揃う。シリア代表戦の不甲斐なさを悔い、準々決勝で奮起してくる可能性も十分にある。幾度も修羅場を潜り抜けてきたチームが団結した時に発揮される大一番での底力は計り知れない。ベスト4進出を賭けた日本代表との激突は、一瞬の気の緩みも許されない“アジア頂上決戦”にふさわしい大熱戦になること間違いなしだ。
文◎舩木渉