上写真=久保建英の絶妙なアシストから中村敬斗の代表初ゴールが生まれた(写真◎Getty Images)
ありがとうと伝え、おめでとうと返す
世代をけん引してきた2人のアタッカーが6年ぶりにピッチの上で共演し、ゴールを生み出した。これを“エモい”と言わずして何と言おう。
15日に行われた『キリンチャレンジカップ2023』で、日本代表はエルサルバドル代表に6ー0の大勝を収めた。この試合で日本代表の5点目を決めたのは、後半から途中出場した中村敬斗だった。
60分、相手の縦パスを旗手怜央が高い位置でカットしたところからカウンターに移る。旗手からのパスをフリーで受けた久保建英はドリブルで相手を引き付け、ディフェンスの股を通すスルーパスで左に展開。最後は中村が右足でシュートを流し込んだ。
「得点シーンは本当に久保選手に感謝したいですね。もう『決めてくれ』みたいなパスだったので、本当に決めるだけだった。うれしいです、素直に」(中村)
2000年生まれの中村と2001年生まれの久保は、育成年代から常に比較されてきた。そして互いに切磋琢磨し、同世代を引っ張ってきた存在でもある。U-15日本代表で初めてチームメイトになり、2017年にはU-17日本代表としてインドで開催されたFIFA U-17ワールドカップにもそろって出場した。
ピッチ上での共演はそのU-17ワールドカップ以来、6年ぶりのこと。それでも世界の舞台で互いのゴールを演出していた2人のコンビネーションは失われていなかった。中村が「長く一緒にやってきて、そこに走れば彼が(パスを)出してくるのもわかっていたので、信じて走ってよかったです」と語る通り、まさに阿吽の呼吸である。
久保にとっても納得のアシストだったようだ。「切り返したときにはほぼ全体が見えている」という22歳は、目の前でディフェンスを引き連れておとりになった堂安律の動きを見極めたうえで、中村がオフサイドにならない確信を持ってラストパスを出した。
「(中村が)目の前のディフェンスより前にいたんですけど、たぶん(堂安が)釣り出した相手のところでディフェンスもついて来るし、オフサイドではないなと思って。あとは落ち着いて彼(中村)が決めるだけでよかったですね。すぐにオフサイド確認しに行きましたけど、『ない』と言われたので、よかったです」(久保)
試合後、中村は久保に「ありがとう」と伝え、久保は「おめでとう」と返したという。ただ、これは中村側の証言。久保曰く、本当は「めちゃくちゃありがとう、タケ」とよりストレートに感謝を伝えてきたとのこと。こうした性格の違いが表れるやり取りも、実によく2人の関係性を表していると言えよう。
常に違いを意識して高め合ってきたからこそ、6年ぶりに一緒にプレーしても即興で感覚を合わせることができる。中村は「久保がスペインでプレーしているのも試合を見ているので、彼がどういうプレーをするかある程度わかっている。僕がフリーになっていたら間違いなく出てくるだろうなと思って、信じて走っていたので、間違いないと思いました」と語ったが、久保も逆の立場で同じ感覚を抱いているのではないだろうか。
久保は今季、スペイン1部で大ブレイクを果たして世界的な注目を集めるプレーヤーになった。日本代表でも着実に出番を増やし、中村の一歩先をいく。
だが、中村も負けるつもりはない。今季はオーストリアのLASKリンツで公式戦17得点と躍動し、ステップアップの噂も絶えない。日本代表では久保よりも早い2試合目の出場で初ゴールを挙げて「大きな一歩を踏み出せた」と実感する。
そして「ゴールを決められたのは、ひとまずいうれしいですね。今日はちょっと、その余韻に浸りたいです」とはいうものの、「ここから継続して入れられるかが大事」とも述べており、1点で満足することはない。
「これからの日本代表を生き残っていくには、間違いなくベースのハードワークする部分は当たり前にあって、そのうえで自分の個人技がある。その武器がない選手はそもそもここに来ていない」(中村)
そう語る中村をはじめ、“00ジャパン”と呼ばれた2000年以降生まれの選手たちが続々とA代表に招集され、活躍の幅を広げつつある。その世代の先頭に立ってきたのがエルサルバドル戦の5点目を演出した2人だ。彼らがこれからの日本代表をどのように高めていくか、今後が楽しみで仕方ない。
取材・文◎舩木渉