日本代表が22日、合宿3日目を迎えた。この日、久保建英、前田大然を除く24人で初めて全体練習を行った。報道陣に公開されたのは練習冒頭のみながら、名波浩コーチ指導のもと、これまであまり見られなかった練習に取り組んでいた。

上写真=練習中の森保一監督(右)と名波浩コーチ(写真◎サッカーマガジン)

これまでに固執せず、これからを作る(森保監督)

 第2次森保ジャパンは、それ以前とコーチ陣の顔ぶれが変わった。攻撃担当コーチだった横内昭展コーチと上野優作コーチが退任し、それぞれジュビロ磐田、FC岐阜の監督に就任した。

 代わってチームに加わったのが、名波浩コーチと前田遼一コーチだ。森保監督は2人の役割について、3月上旬に行った取材の中でこう説明している。

「まずはこれまでやっていたような形(=編成)でスタートしたいと思います。ただ新しく入ってきてくれたコーチのキャラクターは(前任者と)違う。攻撃的な部分を任せるという部分では横内さん、上野コーチと同じようなことが言えますが、やれることは違ってくると思いますので、いったんスタートして変化をつけていきたいなと思っています」

 2人の新コーチの担当は攻撃面。指揮官が期待するのは「変化」だという。

「これまで通りで変えなくてもいいベースとなるものは大切にしながらも、『これから』をどう大切に作っていくかを我々は考えていかなければいけない。『これまで』にこだわりすぎず、固執しすぎず、新たな血が入ってくれたこと、新たな風として入ってきてくれたことを、チームがポジティブに変換してレベルアップしていけるようにということを考えています」

 22日の練習では早速、その「変化」を確認できた。新型コロナウイルス検査で陰性確認できておらずホテル待機の久保建英、別メニューの前田大然を除いた24人による全体トレーニングで、名波コーチが中心となって問題点の改善に着手したのだ。スローインからスタートする3対3+フリーマン1人(7人1組)のメニューを行った。

「顔を出さないと!」「受け手がいないよ!」と名波コーチや斉藤俊秀コーチの声が飛ぶ。コーチ陣がボールボーイ役となり、スロワーに球出しするところから始める、実戦を想定した練習だった。

 かつて取材の中で名波コーチは、スローインの重要性を指摘していたことがある。スローインにおいて攻撃側はスロワー1人がライン外に出るため、フィールドプレーヤーの数が9人になる。それに対して守備側は10人いる。数字上、守備側優位となる状況を踏まえてプレーすることが必要だが、その当たり前が疎かになりがちだと説いていた。

 実際、カタールW杯では日本のスロワーに対して受け手が顔を出さず、相手にマークされてなかなかボールを投げ入れられないために結局ミスからボールを失う場面が散見した。

「W杯を含めて今の日本代表はスローインから奪われることだったり、クイックで始められないときに、ただ前に投げて跳ね返されるってことが結構あった。ミーティングで(そのことを)言っていて、そういうところを修正できればということで(練習している)。うまく外してワンタッチで展開したりっていうところ。スローインはやっぱり大事なんでそういう意図の練習だったと思います」

 伊東純也によれば、ミーティングで改善点を共有し、その後、練習に取り組んだという。

 攻撃側はどうやってボールをつなぐのか。守備側は数字上優位な状況をいかに生かしてボールを奪うか。状況をしっかり把握し、トレーニングすることでスローインは格段に向上するというのが名波コーチの持論。代表ではザッケローニ監督時代にスローイン練習を行っていたが、少なくとも森保ジャパンではこれまで頻繁に取り組んでこなかった。すぐに効果が表れるかどうかではなく、こうしたディティールに目を向けて、積み上げていくという姿勢は重要だろう。

「我々がこれまでやってきた戦術的なコンセプトであったり、考え方であったりは、一通りは伝えていますが、名波にも前田にも(2人が)新しく入ってきたことがより生かされる形でやっていきたいと話しています。そして2人がこれまで客観的に見て代表の良かったところと、自分たちが入ったらどういうところを改善したいかということを大切にしてほしいと伝えています。そのことを我々にも話してもらいました」 

 前述の取材時に、森保監督は新任の2人のコーチの客観的な視点も参考にしながら、レベルアップを図っていくと話していた。スローイン練習はおそらく、そうした意見を取り入れて実施したものだろう。

 全体練習初日となったこの日はすでに試合2日前だったため、メディアに公開されたのは冒頭の30分程度だった。その後に行われたであろう戦術練習は見られなかったが、「今日、ビルドアップの練習とかしましたけど、新たな、新しい感じだっていうのは感じましたね。いろいろ新しいことにチャレンジしていけばプラスアルファになる」と、伊東は練習の感想を語っていた。ボールを奪った後のビルドアップの向上は、森保監督が挙げていた3月シリーズのテーマだ。スローイン練習も含め、この日、早速、課題克服に取り組んだということだろう。

 日本代表に、新しい風が吹き始めているのは確かのようだ。

取材◎佐藤景