将来を見据えて若手を積極起用してほしい思いはもちろんあるが、今年11月に開幕するカタール・ワールドカップで結果を残すために代表チームを好転させ得る「経験者」をこの機に試すのもありではないか。いま何が足りず、何が必要かを踏まえて、7月のE-1選手権に招集し、試してほしい選手を考えた。

上写真=変わらぬ存在感をピッチで見せている家長昭博(写真◎J.LEAGUE)

文◎国吉好弘

試してほしい家長、大島、塩谷、野津田、天野…

 7月に行われるE-1選手権はワールドカップ(W杯)でメンバー入りを目指す選手にとって最後のチャンスになる。といっても、すでにメンバーの大半は確定しており、ここから滑り込むにしても数人だろう。それでも本大会の登録メンバーがこれまでの23人から26人になり、新たに加わる選手がチームの底上げを促し、戦い方のバリエーションを増やす手助けとなる可能性も十分にある。

 森保一監督はこの大会に臨むメンバーはこれまでW杯に出たような選手は呼ばないことを示唆している。ただし、「W杯に出た選手」と断わっていることから、そうではない選手であればベテランにもチャンスがあるかもしれない。というのも、中長期を見据えたチーム作りの段階であれば、わざわざベテランを呼ぶ必要はないとしても、W杯本番はE-1から4カ月後のこと。この時点でコンディションが整っている経験豊富な選手であれば、それを維持し、現在のチームに足りない要素を加え、チームの総合力を高めることに寄与すると考えられるからだ。

 となれば、真っ先に名を挙げたいのが川崎フロンターレの家長昭博だ。すでに36歳となっているものの、川崎Fで見せるパフォーマンスはその力が全く衰えていないことを証明している。チームに数々のタイトルをもたらしているここ数シーズンに重要な働きは、誰もが認めるところだろう。ボールを失わず時間を作るプレーはJリーグ随一。現在の代表には川崎Fでプレーしている、あるいはしていた選手が増えており、コンビネーションも問題ない。本人もテレビのインタビューで代表への意欲を示していた。右サイドを主戦場とするレフティーということで、堂安律とプレースタイルが似ている点は気になるが、国内で圧倒的な存在感と安定感を示すベテランは、チームを底上げするピースにもなり得る。E-1で試してもらいたい一人だ。

対人の強さを発揮している広島の塩谷司(写真◎J.LEAGUE)

 次に今季サンフレッチェ広島に復帰して出色のプレーを見せている塩谷司の名を挙げたい。ここのところ広島は見事なプレーを見せて結果も残しているが、特に塩谷がディフェンスラインに下がってから守備が安定した。人に強く、冷静で判断に優れるプレーは、代表の一員にふさわしい。加えて4シーズンに渡って中東でプレーしてきた実績は日本人選手では唯一の存在。アラブ首長国連邦で開催された2019年のアジアカップでも急きょ招集されて期待に応えた。今回のW杯は中東での開催だけに、その経験は少なからずチームの役に立つはずだ。

 同じ広島で今季2度目の復帰を果たした野津田岳人も注目に値するプレーを見せている。ユース時代から期待されながら、もう一つ力を発揮できずに、さまざまなチームを渡り歩いてきたが、昨季プレーしたヴァンフォーレ甲府で中盤の守備的な役割を担って一皮剥けた印象だ。それが広島に戻り、さらに磨きがかかっている。特にミヒャエル・スキッベ監督にアンカーの役割を託されて、ブレイクした。かつては攻撃的な選手で守備が強いイメージはなかったが、今季はこのポジションで力強さと判断の良い守備を見せており、そこから的確なパスを味方に供給して、これまでのイメージを一新している。プレーに自信と余裕が生まれたことで、本来の最大の武器である左足のキックもより生きるようになった。ミドルシュート、セットプレーからのゴールも生まれており、代表に不足している武器を供給する存在にもなれるかもしれない。

 セットプレーでのキッカーという意味では、現在韓国でプレーする天野純にも期待したい。所属する現代蔚山で素晴らしいプレーを見せて韓国のファンを驚かせており、FKからすでに 2ゴールを決めるなど攻撃的なMFとしてKリーグで屈指の存在と言われている。今回は海外組を呼ばないことになっているものの、韓国はその限りではないだろう。パスの能力は高く、懸案となっているインサイドハーフのバックアップの候補となる。

 このポジションでは先日の北海道コンサドーレ札幌戦で復活を果たした川崎Fの大島僚太も試したい。札幌戦でのプレーは、その技術と能力の高さを再認識させた。ピーク時のプレーにはもう少し時間が必要だとしても、大島がベストフォームなら、例えば遠藤航が出場できない時には、守田英正をアンカーにして田中碧とトリオを組めば、最もボールが動いて最強だったときの川崎Fの中盤がピッチに再現される。ロシアW杯のメンバーではあるものの、しばらく代表を外れており、森保監督の言う「W杯組」の限りではないだろう。例外として試す価値はある。

 ここまで経験豊富な選手たちの名前を挙げてきたが、もちろん、今大会で若い選手を試すことも重要だ。森保監督は、先のAFC U-23アジアカップを戦ったU―21代表からも数人が「昇格」を果たすことを示唆した。その中ではMF藤田譲瑠チマ(横浜F・マリノス)、FW鈴木唯人(清水エスパルス)が双璧をなす。藤田の攻守における運動量と確実なプレー、躊躇なく出すことができる縦パスはA代表でプレーするレベルにあるのではないか。鈴木唯の相手より一瞬早くタッチすることができるドリブルや決定力の高さも貴重な戦力に成り得る。さらにU―21代表ではないものの、Jリーグで良いプレーを見せている明本考浩(浦和レッズ)や橘田健人(川崎F)といった新戦力の台頭も期待したいところだ。

 すでに代表の常連である国内組の谷口彰悟や山根視来(ともに川崎F)が招集されるかは分からないが、参加となれば彼らが中心となるはずで、その存在感を確認するとともに、若手がどんなプレーを見せてくれるかに注目したい。そして指揮官がベテランにチャンスを与える考えがあるのか、今後のチーム作りを大きく左右する点でもあるだけに興味深い。

復帰後、さすがの技術と戦術眼を示している川崎Fの大島僚太(写真◎J.LEAGUE)