上写真=田中碧は4-3-3システムを「まだまだ良くなるところしかない」と前向きにとらえている(写真◎スクリーンショット)
「前にいる人数が減るのは意味のないこと」
田中碧には「余裕がない」のだという。
1勝2敗と窮地に立たされた10月12日のオーストラリア戦で、最終予選初の先発出場、すかさずゴールを決めて、新システムの4-3-3の中心人物として脚光を浴びた。続く11月11日のベトナム戦でも4-3-3を採用し、田中も連続先発。1-0の勝利に貢献した。
ただ、試合直後には「我慢して間でプレーする」という意識で臨んでいて、ボールに関与する回数が少なかった理由を自己分析していた。オーストラリア戦では最終ラインに近づいてボールをピックアップしてから組み立てていくプレーが多かったが、ベトナム戦では激減。なぜか。
「ビルドアップせずにボールを握れて押し込める試合状況の中で、どこでプレーしたほうがいいか探りながらプレーした結果、ああいうプレーになったのは反省を含めてあります」
前提として、オーストラリアとベトナムが仕掛けてきた戦い方が異なった。ベトナムは5バックで守ってきたので、田中がポジションを下げなくてもチームでボールを前に運べることができていた。
「下に降りて縦パスを入れることもすればよかったかもしれませんが、それで後ろに重くなって前にいる人数が減るのは意味のないことです」
ここにも、相手を見て最善のプレーを選ぶ田中の「考えるサッカー」の発露がある。4-3-3の常識と判を押されたような考えに必要以上に固執していない。だから、ベトナムを観察して、できるだけ最終ラインと中盤のラインの間にポジションを取った。だが、ここからが最大の反省。
「我慢してライン間で受けたときにどれだけクオリティーを出すかが求められています。インサイドハーフをやるなら、ゴールやアシストのクオリティーがほかの選手より落ちるのは自分でよくわかっています」
遠藤航、守田英正と組むミッドフィールドを「スリーボランチ」とあえて表現したのも、そんな背景がある。3人とも最も特徴を出せるのはボランチのタスクをこなすとき、という認識だ。
「よりクオリティーを出せるように、すぐにはできないけれど求めていかないと。新たな自分のスタイルや可能性が増えるいい機会だと思っているので、一つ前でプレーする上では求めなければいけない」
それでも、開始わずか6分でいきなりチャンスを作った。右裏に走り出していって山根視来からの縦パスを引き出し、相手のミスもあって突破、フリーの南野拓実がよく見えていて、マイナスへ折り返したシーンだ。ボールが跳ねて南野が大きく外してしまうのだが、早々にビッグチャンスを生み出した。
「幻の追加点」になった40分の伊東純也のフィニッシュも、攻撃の意欲が表れたシーンだ。VARチェックのあとの主審のオンフィールドレビューによって、田中がシュートコースを横切ったことでオフサイドとされてしまったのだが、カウンターからよく走って、左をドリブルで抜けた伊東とその逆サイドに並走する南野の位置を首を振って何度も確認しながら、伊東に近い方へ抜けた判断だった。
それでも余裕はない。
「個人のプレーに関して言えば、オーストラリア戦もベトナム戦も満足いくプレーは一つもできていないので改善しなければいけないと思います。出ている試合で勝ち続けているのは少しは貢献できているのかなという感覚はありますけれど、もっともっと貢献しなければいけない。正直なところ別に内容をめちゃめちゃ追求できるほど自分に余裕がないのも事実です。最終予選のプレッシャーの中の戦いだし、いまの順位でプレーしなければならないのはメンタル的にもプレッシャーがあります」
そこを超えていく方法は、ある。
「試合を重ねるごとにリスクを犯すプレーを増やせれば、自分自身のクオリティーも上がっていくと思いますし、とにかくやっていっていろいろなものを乗り越えていくしかないと思っています」
リスク上等。まずはオマーン戦で、恐れることなく仕掛けていくだけだ。