10月に続いて集合している日本代表。酒井宏樹は前回は1試合にフル出場したが、その後に所属のマルセイユでチャンピオンズリーグを経験、さらなる刺激を手に入れた。それを再び代表でも示していくために、遠慮なくアピールしていく。

上写真=笑顔で練習に取り組む酒井宏樹。常連となったいまもアピールを続ける(写真◎JFA)

「信頼してもらっているし、僕も信頼している」

 ちょっと意外な答えだった。今回の代表活動におけるテーマについて聞くと、こんな一言が返ってきた。

「ないですね」

 それはむしろ、「ない」というよりは「設定していない」というニュアンスに近いだろうか。続く言葉からそんな風に感じることができる。

「パナマだったりメキシコだったり、これまでほとんど戦ったことのない相手とやれるのが、ただただ喜びです。そういう相手に自分がどういうプレーをして、どういう結果もたらすことできるかが僕自身の興味なんです。それ以外は特にないですね」

 自らの力がどこまで通用するか。勝負への根源的な欲求が強いのだろう。

 土台にあるのが「信頼」だという。森保一監督の求める右サイドバック、あるいは右アウトサイドのイメージと自分のプレーのすり合わせは、「信頼関係」で成り立っているという。

「どの監督とやってもそこまで細かいことは言われないですし、チームとしての役割を与えてもらった上で、ピッチ上で判断するのは選手だと思うんです。信頼してもらっているし、僕も信頼しているので、その信頼関係が一番大事だと思います」

 10月シリーズでは初戦のカメルーン戦にフル出場、続くコートジボワール戦はベンチから戦況を見守った。その後、所属するマルセイユ(フランス)に戻ってからビッグマッチの経験を積んだ。チャンピオンズリーグに初めて出場、グループステージでオリンピアコス(ギリシャ)、マンチェスター・シティ(イングランド)、FCポルト(ポルトガル)という強豪と勝負した。3試合ともフル出場したのだが、全敗という結果は悔しい。

「一つレベル違う大会だと思いました」と驚いた3試合で、何を肌で感じただろうか。

「レベルの高さや雰囲気、足りないことへの第一歩は出たことでしか分からないですね」

「戦術の部分でどのチームも成熟していて、最初に戦ったオリンピアコスは名のある選手はいないけれど自信を持って臨んできました。チームとして戦ってくるので、油断するとあのようにロスタイムに失点してしまうことになる。個人のレベルが高いのと、チームとしてもレベルが高いです」

 30歳となったいま、また新たな経験に触れることで大きな刺激が内から湧いて出てきたようだ。それを日本代表にも還元してもらわなければ困る。

「こういう時期だからこそ、トライして勝つのが自信になります。だからいまは、アピール合戦になってもいいし、ばらつきがあってもいいと思うんです。締まるときには勝手に締まりますから」

 ワールドカップまでにチームを作っていく逆算としてのいまは、まだまだチーム内で競争が必要だということだ。この時点で早々に方向性をまとめてしまっても、出来上がったときのチームの幅が広がらないという経験則だろう。

 10月の親善試合では、酒井が出場しなかったコートジボワール戦で室屋成がはつらつとしたプレーを見せた。「アピール合戦」は右サイドバックでも始まっている、もちろん酒井はまだまだ負けるつもりはない。