上写真=ヨーロッパ遠征の連勝で、池田太監督は確かな手応えと反省の両方を手に入れた(写真◎Getty Images)
象徴的なフィンランド戦の2点目
今回のヨーロッパ遠征で最初に評価されるのが、2試合で5得点ずつ、計10得点を挙げた攻撃についてだろう。昨年11月の欧州遠征ではアイスランドに0-2、オランダに0-0と無得点だった。対戦相手のレベルの違いがあるにせよ、今回はセルビアとフィンランドに対して攻め抜いて、大量ゴールを稼いだ成功体験は何事にも代えがたい。
攻撃パターンが多彩なのもいい。両サイドからのクロス、サイドを深く割ってのコンビネーション、セットプレー、ペナルティーエリアで勝負した末のPK、ショートカウンター、スルーパスで抜け出した1対1など、相手を崩す方法は多岐にわたった。
特にフィンランド戦の2点目は、このチームの狙いが最も色濃く表れていたのではないか。
中盤で相手のパスをインターセプトした右サイドバックの清水梨紗が、後半から出場してトップ下に入っていた長谷川唯に預けると、そのまま右サイドのスペースへロングラン。右サイドハーフの宮澤ひなたを経由して右深くに入った清水に展開し、センタリング、これを逆サイドから入ってきた左サイドハーフの遠藤純が蹴り込んでいる。センタリングに対しては遠藤の他にもニアに長谷川が、中央にボランチの長野風花が、さらにファーサイドには後半から1トップに入った植木理子が待ち構えていた。ボールを奪い、素早く前にボールを運んで連動して右サイドの深いエリアを攻略し、ペナルティーエリアの中にはバランスよく4人が入り込む。狙い通りの展開だ。
「コンビネーションでお互いのイメージが合ってきたこともそうですし、交代で入った選手がチームでの役割と自分の特徴を持って思い切ってプレーできたのは評価できると思っています」
池田太監督もこの2試合の攻撃面に、そんな評価を与えた。フィンランド戦は前半は難しい試合運びになったが、選手同士の距離感が開きすぎていたことが原因と見て取り、後半には適度な間隔を保つ修正を施した。
「攻撃の起点をサイドで幅を取って作っていこうとミーティングで強調してゲームに入りました。でも、それが逆に振れてしまって、両ワイドの中盤の選手が開きっぱなしになってしまいました。サイドバックの選手も一緒に開いてしまうこともあって、そこはいい意味で高い意識でプレーしてくれたのですが、逆に距離感が遠くなって孤立してしまうシーンが出てしまいました。後半はもう少し中盤の選手の開き具合を微調整して、内側にポジションを取るシーンを増やしたんです」
これで1-1だった前半から、パスにリズムが生まれて一気に4ゴールを重ねてみせた。
10得点という派手な実績で隠されがちだが、守備では「奪う」というコンセプトを改めてたたき込む作業に没頭した。
「前から奪うことの成功体験を積み上げていくのが、いまの段階でトライしていたことです。奪いにいくときは今回のようなスイッチと連動と強度を求めていくことになります。逆に前から奪いにいくのではなく、中盤でバランスよく守備しながら背後のスペースも消しながら、とコントロールする部分も、相手との力関係の中でセレクトできるような引き出しを増やしたいと思っていました」
この点でも、2試合で一定の評価を下している。
「例えば、相手のシステムとのミスマッチでアンカーのところをどうつぶすのか、守備の連動性のスイッチを合わせていくところはこの2試合でコミュニケーションを取りながら、いいコーチングから前線で奪うシーンを作れたと思います」
攻守ともにさらにハイレベルの対戦相手に通用するかは、これからのブラッシュアップにかかってくる。収穫十分の6月シリーズを終えて、次は7月のE-1選手権。インターナショナルマッチデーの活動ではないが、可能な限り海外組も招集できるように各クラブに働きかけているところだという。今回の経験をさらに有益なものにするために、重要な3試合にするつもりだ。何より、アジアカップ準決勝でPK戦で敗れた中国へのリベンジもかかっている。
■2022年6月24日 国際親善試合(スタラパゾバ/セルビア)
セルビア女子 0-5 日本女子
得点者:(日)植木理子、猶本光、宮澤ひなた、千葉玲海菜、成宮唯
■2022年6月27日 国際親善試合(トゥルク/フィンランド)
フィンランド女子 1-5 日本女子
得点者:(フ)エングマン
(日)オウンゴール、遠藤純、高橋はな、植木理子、長谷川唯
なでしこジャパン今後の予定
7月19日 E-1選手権2022 vs韓国(カシマスタジアム)
7月23日 E-1選手権2022 vsチャイニーズ・タイペイ(カシマスタジアム)
7月26日 E-1選手権2022 vs中国(カシマスタジアム)
※9月に予定されていたアジア競技大会(中国・杭州)は延期
10月6日 国際親善試合 vsナイジェリア(ノエビアスタジアム神戸)
10月9日 国際親善試合 vsニュージーランド(長野Uスタジアム)
11月7日〜15日 FIFAインターナショナルウィンドウ
2023年7月20〜8月20日 女子ワールドカップ(ニュージーランドとオーストラリアの共催)