AFC女子アジアカップでなでしこジャパン(日本女子代表)はベスト4に進出し、2023年女子ワールドカップの出場権をしっかり獲得した。もう一つ、喜ばしいのが、岩渕真奈の復帰だ。新型コロナウイルス陽性となって隔離からスタートした大会で、鮮やかな復帰を遂げた。

上写真=岩渕真奈が躍動。センスあふれるプレーで攻撃をリードした(写真◎AFC)

「目線を入れて騙すようにしてから」

 今大会初出場のタイ戦で、岩渕真奈が楽しそうにボールと戯れた。

 新型コロナウイルス感染症の陽性判定を受けたことで隔離措置を強いられて、最初の2試合を欠場した。3試合目の韓国戦でやっとベンチに入り、復帰後初めてのゲームは、ノックアウトステージの準々決勝、タイとの一戦だった。2023年女子ワールドカップの出場権をかけた戦いだ。

「サッカーをするのは好きなので楽しかったです。でも、(失敗してしまった)PKを含めて点を取りたかったので、そこは残念です」

 隅田凛が倒されて得たPKを任された。シュートは左へ。GKに読まれてはじき出された。先制のチャンスを逃してしまった。

 しかし、このチームの大きな可能性を示すゴールを導き出した。27分に菅澤優衣香が先制したあと、前半アディショナルタイムの45+2分だった。

 右サイドの高い位置に出てきた清水梨紗からペナルティーエリアの手前で横パスを受けて、長谷川唯へ後ろにワンタッチで戻すとそのまま前へ、ワンタッチでリターンパスをもらってペナルティーエリアに進入すると、ゴールを横切るようなラストパスを送った。DFに触られたが、左から入っていた宮澤ひなたがプッシュした。

「試合に入る円陣のときに、ゴールの脇を取れたら相手がずれるから、意識しようと言ったんです。2点目はそれが全部出たと思います」

 すべてがかみ合った理想的な一発だった。

「ボールを失ったところの切り替えで、(熊谷)紗希が狙いを定めて奪いきってくれて、サイドにスペースがあったので、そこから梨紗と(長谷川)唯との関係でダイレクトでつながって、みんなの考えが合致したゴールでした」

 相手が攻めに出ようと送った縦パスを、最終ラインで熊谷が読み切って奪ったところがスタート地点。すぐに長谷川が右に展開し、清水、岩渕、長谷川、岩渕と連続ワンタッチパスで崩しきった。自分でもゴールを狙える場所で受けたが、考えていなかったという。「自分でフィニッシュは狙っていなくて、後ろに唯がいたのでそこに目線を入れて騙すようにしてから」と絶妙な小技も効かせてラストパス、最後は逆サイドの宮澤がフィニッシュした。

 コンディションの問題もあって前半だけのプレーにとどまったが、存在感の大きさを示すには十分なパフォーマンス。「7ゴールを奪って勝てたことは良かった」と喜んだものの、諸手を上げているわけではない。

「世界のサッカーから見て、正直言うとアジアがちょっと落ちるのかなと感じているので、まずアジアで日本は強いと証明できるようにこの大会で優勝を目指して頑張りたい」

 9大会連続のワールドカップ出場を決めたとはいえ、いま自分が立っている場所を見誤ることはない。まだ世界とは差がある。それを忘れることはない。

「サッカーの部分で言ったら、もっともっと勝ちにこだわる部分でチームとして経験を重ねることでわかり合えることがたくさんあります。監督が(池田)太さんになって(オランダ遠征の)2試合とこの大会だけだから、もっともっと成熟したときに勝てると思っています」

 中国との準決勝、そして決勝が待っている。3連覇のため、そして成熟のためにしっかり戦いたい。池田監督は攻撃のバリエーションを増やすことをこの大会のテーマの一つに掲げてきた。そのために、岩渕の力が必要だ。

「チームの中でも自分の色は出していかなければいけないですし、ひなたや唯とサイドハーフにいろいろな特徴を持っている選手がいるので、タイ戦以上のバリエーションを出していかなければいけないと思いますし、出せると思います。アクセント加えながら長所を出し合えると思っています」

 個性と個性が響き合って、魅惑的な成熟へ。なでしこジャパンは岩渕の復帰によって、また一歩前進した。