上写真=J1第31節の柏対広島はスコアレスドローだった(写真◎J.LEAGUE)
今季2度の対戦はともにドロー
濃密で濃厚な90分だった。
2025年9月23日、明治安田J1リーグ第31節。柏レイソル対サンフレッチェ広島。両チームの対照的なスタイルが、スタート直後からピッチで激しくぶつかり合った。
ボールを保持し、後方からしっかりビルドアップする柏。そうはさせまいとマンツーマンで人をつかまえにいく広島。
例えば、ゴールキックの場面。柏はボランチがボックス内まで下がってボールを引き取り、ビルドアップを試みた。自陣深くまで下がるボランチに、相手のマーカーもさすがに付いて来れない。そこで『一人浮く』状況を作って、あとは広島のマークのズレ利用しながらボールをつないでいく算段だった。ビルドアップを磨いてきた柏は、つないで前進するための手段をいくつも実装している。
一方で、広島もその点は心得ていた。無理に追えば、空けたスペースを使われてしまう。だから深追いはしないが、ただ黙って見ているわけではない。タフな紫の戦士たちは必要とあれば、一人で二人分の働きを買って出る。前線の選手からしつこい守備と二度追いで、柏のつなぎを制限し、隙あらばボール奪取を試みた。
柏があの手この手でビルドアップするのに対し、広島はハードワークをベースにボール狩りを狙う。両チームともにアグレッシブで、プレーに受け身な要素が一切ない。『攻め』の姿勢に貫かれたゲームは当然ながら熱を帯び、見る者を魅了した。
しかし、チャンスはいくつも生まれたものの、ネットは揺れず。試合は、スコアレスで決着をみた。勝ち点1を分け合う結果は優勝争いを続けていた両チームにとって痛かったのは間違いない。ファン・サポーターにとっても悔しい引き分けではあっただろう。
ただ、繰り広げられた攻防の濃密に、満足感を感じた人は多かったのではないだろうか。試合後、選手たちも悔しさを口にする一方で、ゲーム内容については、ある種の手応えを感じていた。
「内容は本当にすごい良かったと思いますし、広島のゲームができたと思う。ただ、だからこそ勝ち点3がほしかった。この時期は内容よりも結果。もったいなかったという思いもある」
そう話したのはピッチを縦横無尽に駆けた広島のボランチ、田中聡だった。
「局面の勝敗がそのまま試合の勝敗に直結するようなゲーム展開だった。できるだけそういう勝負にしないようにコントロールして、『どこでチャンスをかけるか』という勝負にできたらよかった。でも広島が強かったので簡単にはさせてくれなかった。どっちに転んでもおかしくない試合だったと思う」
柏の攻撃を司る小泉佳穂は、徹頭徹尾、拮抗した勝負だったと振り返った。
両指揮官の試合評は、こうだ。
「今回、われわれは中2日でこの試合に臨まなければならず、広島の方がより時間のある中でも選手たちはいい試合、いいプレーをしてくれた。今日はお互いの特徴が前面に出た、見応えのある試合だったと思う」
柏のリカルド・ロドリゲス監督は、両チームの強みが存分に発揮されたと指摘した。
「今日はJリーグの中でもトップゲームだった。残念ながらゴールを奪うことはできなかったが、日本でトップレベルのサッカーを示すことができた。今日のパフォーマンスに関しては非常に満足。もちろん結果に関しては満足していないが」
広島のミヒャエル・スキッベ監督は指折りの内容だったと胸を張った。
ドローに終わった「Jリーグのトップゲーム」の続きが、今度の土曜日に再び見られる。柏と広島が『JリーグYBCルヴァンカップ』の決勝で相まみえるからだ。
「リーグ戦はやっぱり決着がついていないので。決勝戦ということで必ず決着がつきますし、そういう意味でもすごく楽しみです」
柏の守護神・小島亨介は言った。3月16日のJ1第6節、広島のホームで行われた一戦も、1−1のドローに終わっている。つまり、今季3度目の対戦となる今回のカップファイナルが、正真正銘の決着戦というわけだ。
両チームともに、自らのスタイルを放棄し、消極的な戦いを選択することはないだろう。それぞれのカラーの違いをはっきりと感じ取れる、そんな試合になるはずだ。
最高の舞台で、名勝負の続きを。果たして聖杯を掲げるのは柏か、広島かーー。
文◎佐藤景