上写真=ともに攻撃の中心の川崎F・脇坂泰斗と柏・小泉佳穂のせめぎ合い。第2戦ではどちらが勝つか(写真◎J.LEAGUE)
■2025年10月8日 ルヴァン杯準決勝第1戦(観衆:19,505人@U等々力)
川崎F 3-1 柏
得点:(川)山本悠樹、ファンウェルメスケルケン際、伊藤達哉
(柏)小泉佳穂
川崎Fの場合「基本中の基本」
準決勝の第1戦──つまり「最初の90分」を終えて、川崎フロンターレが3-1として、柏レイソルから白星と2点のリードを奪った。
川崎Fの脇坂泰斗は戦略的な前提として「あの試合」があったと話す。
この10日前の9月28日、両者はJ1リーグ第32節で対戦していて、4-4というど派手な引き分け劇を演じている。川崎Fが先制し、柏が逆転したら川崎Fが再逆転、柏が追いつき、川崎Fが突き放し、そしてまたも柏が追いつくエキサイティングな展開だった。
「あの試合、僕たちのほうが柏さんよりもエラーが多かったので、今日はその分の上積みが出せたと思います」
12日に第2戦が待っているから詳細を明かすわけにはいかず、「今日はしゃべりませんよ」と笑わせたキャプテンだったが、良かったこととして「前向きでプレーしたこと」に言及した。それが上積みのうちの一つということだろう。
「前向きでプレーする時間が長かったのは良かったと思います。うちの前の選手は特に前向きでプレーしたほうが相手にとっては怖いですし、そういったところは多く出せたかなと」
柏は短いパスをテンポよく走らせて相手に穴を空けていくが、川崎Fはまず、そのパスを何度もインターセプトして前に持ち出した。これを、すかさず快足のエリソンとマルシーニョに送って走らせ、形勢をひっくり返していった。10分の山本悠樹の先制点は、佐々木旭のロングパスでマルシーニョが裏に抜け出したのがスタートだし、23分のファンウェルメスケルケン際の2点目も、エリソンが左深くまで持ち込んだところから生まれている。
「一番ゴールに近いところにボールが入っていく、人が入っていくというのは基本中の基本だと思います。どのチームもやれるならやりたいと思います。もっと華麗にショートパスをたくさんつないで攻めるのも大事ですけれども、ゴールに向かっていくことも同時に大事だと考えて、それを共有しています」
長谷部茂利監督がそんなふうに言語化する哲学を、選手が個々の持ち味を投影させながら具現化しているのが、2025年式フロンターレである。
柏の場合「右の再構築」
川崎Fがこうして2点をリードした前半は、柏にとっては悲劇的だ。リカルド・ロドリゲス監督も記者会見で開口一番、「簡単な形で 2失点してしまい、われわれ自身で試合を難しくしてしまったと思います」と嘆いた。
だから、後半開始の時点で大胆に3人を交代させた。ジエゴが務めていた右のワイドを現役大学生で生きの良い山之内佑成に任せた。原川力のボランチのポジションは戸嶋祥郎が引き継いだ。3バックの左は杉岡大暉から三丸拡へ。
リカルド・ロドリゲス監督が強調したのは、右サイドの再構築だ。
「前半左サイドはうまく機能していたと思います。一方で、右サイドがなかなかうまく機能せず、奥行きも幅もなかなか取れませんでした。そこで後半の交代になりました」
「右サイドは山内を投入してより深い位置を取りたいという意図がありました。ジエゴが慣れていない右でもできることをしてくれていますけれども、やはり慣れていないポジションです」
山ノ内は積極的にボールを受けて、縦に勝負を仕掛け、逆にそれをダミーにして中に切り込み、と期待通りに活性化させた。するとどんどん右にボールが巡ってくる。62分に小泉佳穂が決めた追撃のゴールも、その右サイドの密集を山田雄士がドリブルでぶち抜いてから生まれている。
もう一つ、重要だったのは中盤のバランスだ。再びリカルド・ロドリゲス監督の解説。
「中川(敦瑛)が今回、カードの累積によって不在でした。彼のクリエイティブなプレーも、押し込んだときにチームにプラスアルファを提供してくれていたので、その不足分を、戸嶋を起用して山田を一つ前で起用することによって、後半は山田がよりクリエイティブなプレーを提供してくれていたと思います」
前半は原川と山田が中盤の中央に立ったが、川崎Fの圧に押されて機能しきれなかった。それをベンチから見ていた戸嶋は、自らが入った後半に役割分担をはっきりさせることに注力したという。
「前半のボランチの2人はどちらも攻守で力を発揮できるタイプ。だから逆に、どっちが下りてビルドアップに絡むのか、あるいはどこまで出ていくのか、というのが曖昧になってしまったところもありました。だから僕と雄士だと、僕が守備で、と役割をはっきりさせたことがうまくいったかなと」
最後にもう1点を許し、2点差にされたのは余計だったが、前半の苦闘を覆す組み替えをスムーズに実行できたことは、第2戦への明るい布石になるかもしれない。
再び川崎Fの場合「時間の使い方」
川崎Fに話を戻せば、後半に主導権を渡しながらも失点は一つだけに抑え、最後に絶好調の伊藤達哉が追加点を挙げ(公式戦11戦11発!)、勝負強さを見せつけたのは大きい。
ただし、長谷部監督は自身の仕事に忠実になって、より完璧を目指す。
「自分たちが攻撃に入ったときに、もう少し時間を使ってもいいし、ボールをつなぐプレーが多くなっても良かったと思います。自分たちの時間の使い方、攻撃のときの時間の使い方、プレーの仕方というのについて、もっともっと精度を高めていくということ。相手が嫌だと思うような選手、チーム、グループになったら、もっといいほうにいくんじゃないかという思いはあります」
前への意識を強めるあまり、行き過ぎてしまって損もする。相手を見て、自分たちを見て、その手綱を引くことも、ときには必要ということだ。
時間の使い方、という意味では、後半開始の時点で柏が3人を変えてパワーをかけてきたタイミングでの振る舞いも難しかった。脇坂もそこに改善点を見出す。
「人が変わると、単純にやり方を同じようにしようとしても変わるのは当然。そこにアジャストするのにちょっと時間がかかったというか、その時間に失点もしてしまって。それはうちのメンバーが変わったときも同じだけれど、人が変わっている分でゲームが動きやすいと思うので、そこをもっと…守りきるという言い方あんまり好きじゃないし、目指していないので、そこでもっと敵陣でプレーできるようにしたかったと思います」
というわけで、つまり、川崎Fは柏のように時間を使いながらボールを回して押し込むことが必要で、柏は川崎Fのように時間を圧縮しながら前に前にと出て行く迫力が必要だ、ということになる。
異なるアプローチを持って攻め抜くこの2チームの監督や選手が、鏡に映った自分たちの「足りないこと」を、その鏡の向こう側に見つけた、と図らずも口を揃えた90分。
12日の激突で明かされる、それぞれの行く先が楽しみでならない。