11月2日のJリーグYBCルヴァンカップ決勝で、アルビレックス新潟はクラブ初のタイトルを逃した。名古屋グランパスに先行されながら延長戦までもつれ込んで3-3に追いついたものの、PK戦で涙をのんだ。初の決勝で苦しむ展開の中で、松橋力蔵監督が選手の心に届けた言葉とは。

上写真=松橋力蔵監督はポリシーを曲げずに真っ向勝負、あと一歩までチームを導いた(写真◎Getty Images)

■2024年11月2日 JリーグYBCルヴァンカップ決勝(観衆62,517人/@国立競技場)
名古屋 3-3 PK5-4 新潟
得点:(名)永井謙佑2、中山克広
   (新)谷口海斗、小見洋太2

越えた右足、越えなかった左足

 31分に阿部航斗の痛恨のミスから、42分にはクロスから、どちらも永井謙佑に決められて、あっけなく2点を失った。そのハーフタイム。

「これで舞台が整った」

 松橋力蔵監督は選手たちにそう語りかけたのだと明かす。

「こちらのエラーで相手を勢いづけてしまったのは非常に残念ですが、そこで気持ちの部分で負けないために、これで舞台が整ったぐらいの気持ちでやろう、これをひっくり返すんだと」

 谷口海斗が71分に決めて1点差、敗戦目前にPKを得て小見洋太が落ち着いて決めたのが90+11分。土壇場で追いついた。延長に持ち込んだ直後の93分に中山克広に決められて引き離されたが、カウンターからまたも小見が仕留めたのが延長後半の111分。まさに「舞台」で躍動した。

 チームを率いて3年目。「てっぺん」という印象的な言葉を使って高みを目指すことを宣言したシーズンは、ルヴァンカップで決勝に導き、クラブ初のタイトルに王手をかけるところまでたどり着いた。

 決勝に臨むに当たって、特に攻撃陣に揃う多くのタレントをどのように組み合わせて勝つか、松橋監督の思考が注目された。

 右サイドハーフに俊足の太田修介。左サイドハーフはパワーシューターの谷口海斗。体の強い小野裕二を最前線に、テクニシャンの長谷川元希をその周辺に配置してスタートした。

「先発に起用したのは、チームでも得点力のある選手たちです。先制点は非常に大事で、ここというところを逃さない、そういう力を持っている。ゲームを優位に進めるためにどう得点を奪うか、シンプルにそういうことです」

 だが、2点をリードされ、苦境に陥った。すると、65分にチームをつなぐセンスに優れた星雄次をボランチに、独力突破が売りのダニーロ・ゴメスを右サイドハーフに、そして今大会のトップスコアラーである長倉幹樹をFWへと送り込むと、72分にも狭いスペースに潜り込めるドリブラーの奥村仁をトップ下に、がむしゃらさでゴールを襲う小見洋太を左サイドハーフに入れた。この段階でもう交代枠を使い切った。

「早かったかなと思いつつも、やっぱり点を取りにいかなければいけないことを、メッセージとして伝えなければと」

 その大胆さが、生きた。谷口の反撃のゴールをアシストしたのはダニーロ・ゴメスで、PKを獲得して決めたのは小見、再びの同点ゴールは長倉のスルーパスから小見が決めた。

「ジョーカーとしては奥村をトップ下で起用したのですが、実は少しサプライズではないですけれども、奥村を左サイドにして小見を真ん中にしようと思っていたんです。でも、相手の戦い方や守り方を見たときに、サイドでスピードアップしたり一工夫するのではなくて、それを真ん中でやったほうがいい攻撃につながるのではないかな、と」

 相手を見た上でやはり奥村を中央に据えると、キレのいいドリブルで相手の混乱を誘い、左寄りで待ち構えた小見に長倉からのパスが出て3点目が生まれた。

 それでも、ひっくり返すところまでは届かなかった。そして、PK戦では4-5で敗れた。手を伸ばせば触れることができそうに見えたトロフィーは、目の前から消えた。

「今年はスタートから『チームポッシブル』という言葉を使って、オレたちは可能なんだ、何をするにしても可能なチームだ、そこをしっかり見てやっていこう、と話してきました。常に目の前にある何かを越えていかなければならない境界線があって、それを今日は右足は越えたかもしれない。でも左足は…最後にできなかったですね」

 地鳴りのような声援が最後の最後までピッチに届けられ、その声の主たち、ファン・サポーターに「少しはいい景色を見せることができたかな」という実感は手にできたという。それが、アルビレックス新潟と松橋監督にとっては、トロフィーの代わりのご褒美になったかもしれない。