10月13日のJリーグYBCルヴァンカップ準決勝第2戦で、アルビレックス新潟は川崎フロンターレにゴールを許さずに2-0で勝利。2試合連続勝利でクラブ史上初の決勝進出を果たした。多くの選手が出場しているチームにあって、この大会でゴールを守るのが阿部航斗。自らの価値を高めるチャンスに貪欲だ。

上写真=阿部航斗はいつも笑顔。陽気と真剣さを併せ持つのも魅力だ(写真◎J.LEAGUE)

■2024年10月13日 ルヴァンカップ準決勝第2戦(@U等々力/観衆21,159人)
川崎F 0-2 新潟
得点:(新)小見洋太、太田修介
※新潟が2勝で決勝進出

「力蔵流」マネジメント

 4-1、そして2-0。川崎フロンターレとの準決勝の2試合で挙げた6得点のうち5つは、悔しさをかみ殺してきた男たちによるものだった。

 太田修介、長谷川元希、星雄次、小見洋太。ケガに悩まされてきた太田や星や小見、移籍1年目でポジション争いに苦悩を抱えてきた長谷川元と、それぞれにもがいてきた。そんな彼らの大舞台でのゴールに、一体感が高まらないわけがない。

 トーナメント戦によくあるような「ラッキーボーイの出現」(しかも4人も!)なのかというと、そうではない。松橋力蔵監督は「ローテーション」より「全員戦力」という表現を好むが、J2優勝を果たした2022年の就任以来、一貫してメンバー選考は流動的だった。だから、「彗星のごとく現れて」というような派手な枕詞を必要とする選手はほとんどいない。

 今年のチームでいえば、センターバックは舞行龍ジェームズ、千葉和彦、早川史哉、トーマス・デン、遠藤凌、そして特別指定選手の稲村隼翔がいて、左サイドバックはキャプテンの堀米悠斗、コンバートされた星、夏に加わった橋本健人らが担っている。

 ボランチもいまや大黒柱の秋山裕紀に、今季加入の宮本英治、ベテランの島田譲、星、ルーキーの奥村仁らで回してきた。右サイドハーフでは松田詠太郎、ダニーロ・ゴメス、小見洋太、太田、高木善朗、長谷川巧が、左サイドハーフでは谷口海斗、長谷川元、小見らがプレーする。

 前線では長倉幹樹がブレイクし、鈴木孝司、小野裕二のストライカー陣に加えて、高木、長谷川元、奥村のトップ下タイプを組ませることもある。

 というわけで、ほぼ固定されている右サイドバックの藤原奏哉を除けば、ほとんどの登録メンバーがピッチに立っているのだ。すると、どの組み合わせになっても個性を理解しあってプレーできて、チームとしての「新潟らしさ」も発揮できるようになる。これが、チームの総合力を上げる「力蔵流」のマネジメントである。

 GKも同様で、リーグ戦では小島亨介が守るが、ルヴァンカップでは阿部航斗である。

「正直、やられたかなって」

 ルヴァンカップでの阿部は、登録上のミスでプレーオフラウンド第1戦のV・ファーレン長崎戦に出場できなかったが、それ以外は守護神として立ちはだかってきた。

 10月9日の準決勝第1戦では1失点している。4点をリードしたあとに追撃の一発を浴びたのだが、これがいい薬になった。第2戦ではさらなる集中守備が光って、クリーンシートを達成したのだ。

「この2試合はほとんどが正面に飛んでくるシュートで、みんなでコースを限定してくれました」

 自らの力というよりは、仲間のおかげだと強調するのはこの人の正直さだ。

 危険なシーンがないわけではなかった。切り札として投入された小林悠が胸トラップから半身のまま左足を振って鋭く襲いかかった77分のシーン。

「体は動いてたんですけど、正直、やられたかなっていう感覚で。レベルの高さを感じさせられるプレーでした」

 わずかに枠を外れて事なきを得たが、リーグ戦での出場は今季はわずか5試合と限られているから、J1の選手たちのすごみをリアルに感じるピンチですら無駄にしたくない。どんなことからも何かを学び取ろうとする真剣さがにじみ出る。

 総じて不安定な判断もなく、小林のシュートを除けば川崎Fの猛攻にも涼しい顔。

「ディフェンスの選手が激しくプレスにいけていたので、相手の選択肢をかなり奪ったディフェンスができていました。自分も判断するのに難しいプレーはあまりなかったので、そこはディフェンス陣のおかげなんです」

 強調するように仲間の貢献を繰り返し称えて、準決勝を総評するのだった。

 そうは言っても、クラブ初の決勝進出を成し遂げた事実は、阿部の貢献として記憶される。

「実際、立場的にはやっぱり2番手なので、なんとか自分の価値というものをこのカップ戦では見せたいと思って試合に臨んでいます。自分のパフォーマンスがいいかどうかは分からないけれど、決勝まで進めて、ここまでは悪くない感覚で来ています。最後に勝ってこそ自分の評価も上げられると思うので、必ず勝ちたいですね」

 思いを形にする勝負の日は、11月2日だ。