10月15日のJリーグYBCルヴァンカップ準決勝第2戦で、浦和レッズが横浜F・マリノスを2-0で下して決勝進出を決めた。第1戦で0-1で敗れて迎えたこの重要な一戦に、アタッカーの関根貴大が右サイドバックとしてフル出場したのだ。しかも、本職と見紛うほどのプレーぶりは驚き。その理由は本人にも分からないようなのだが…。

上写真=関根貴大が右サイドバックでもいつもどおりのプレーで沸かせた(写真◎J.LEAGUE)

■2023年10月15日 JリーグYBCルヴァンカップ準決勝第2戦(@埼玉ス/観衆29,504人)
浦和 2-0 横浜FM
得点:(浦)アレクサンダー・ショルツ2
※ともに1勝1敗で、得失点差で浦和が決勝進出

「じゃあ、オレが中に入るわ、と」

「いや、マジで分からないんですよ。本当に何が良かったのかもよく分かってなくて」

 じっと話を聞いてみると、どうやら謙遜しているわけではなさそうだ。浦和レッズが誇る快足アタッカー、関根貴大が「右サイドバック」で大活躍。

 横浜F・マリノスを相手に2点差以上で勝たなければ敗退するルヴァンカップ準決勝第2戦という大一番で、酒井宏樹の出場停止のために巡ってきたスクランブル起用。慣れないポジションでキックオフからピッチに送り込まれたのは、本人曰く、4度目とのこと。

 マチェイ・スコルジャ監督はこのセレクションについて問われて「説明していると、この会見の時間のすべてを使ってしまう」と笑わせたが、それだけ熟考を重ねたのだと分かる。

「スタッフと長い時間、話しました。ホームゲームであり、ゴールを決めなければいけない試合で攻撃的にプレーしなければいけないので、最も攻撃的なタカ(関根)というオプションにしました」

 つまり、攻め抜く姿勢を表す象徴的なコンバートだったのだ。

 そしてそれが、まんまとはまった。その理由は冒頭のように関根自身にも不明なのだが、あらゆることを受け入れる心の余裕がもたらしたものかもしれない。

「楽しかったですし、自分がいままで経験したものを、このポジションで、自分色に出せたのかなとは思います。このポジションはほかにも選手はいっぱいいるけれど、違うものが出せたらいいかなと」

 こんなふうにも表現している。

「サイドバックをやるにあたって、ネガティブになっててもしょうがないと思ってたんで。自分なりにやってうまくいけばいいし、いかなかったらまた考えればいいかと。そういう気持ちではやってましたよね」

 どうやら、このコンバートを素直に受け入れたことが、自然体につながったようである。

 攻撃的オプションとはいえ、目の前の敵はJリーグ屈指の高速ドリブラー、エウベルである。関根も正直、驚いた。

「めちゃくちゃ怖かったです。一番強力なウイングじゃないですか。あ、でもそこで自分を使うんだ、とは思いましたよ。え、オレにどこを求めてんの、みたいな。守備も求めてるの、と」

 だからと言って守備面で細かい指示はなかったという。でも、抑え込んだ。ドリブラーにはドリブラーを、の選択が鮮やかに効果を発揮するのだから、面白い。

 守備の基盤ができれば、あとは監督の目論見通りに攻撃で力を発揮すればいい。いつものサイドハーフと比べると、ボールを受けやすいという感触を得ていた。

「サイドに立っているほうが(相手の守備に)ハマっちゃうと思ったんです。(右サイドハーフの高橋)利樹がサイドで受けるほうがいいって言ってたし、じゃあ、オレが中に入るわ、と」

 15分にオフサイドで取り消された幻の先制ゴールがあった。これは関根が内側のポジションに立ってアレクサンダー・ショルツからボールを引き出したところがスタートで、逆サイドに大きく振ってから、荻原拓也のクロスをホセ・カンテが収め、早川隼平が蹴り込んだものだった。

「そういう練習もしてるわけではないですけど、マリノスもやってるじゃないですか。すごく嫌だったので、自分もやってみようかな、みたいな」

 積み上げて、修正して、と時間をかけたわけではなくて、相手のプレーを見て、即興でここまで軽やかに演じてしまうとは。

「だから、楽しかったですね。ここが空いてるなと思って入っていったら、やっぱりスペースが空いてるし、周りもそこを見てくれます。前にいるよりはショルツも(岩尾)憲くんもそうだし、マリウス(ホイブラーテン)も逆サイドも見てくれて、みんなに助けてもらいながらやれたかなと思いますね」

 自らのセンスと周囲の細やかな献身があって見事に誕生した「右サイドバック・関根貴大」。

「変化があるのは自分にとってもいいですね」と清々しいから、このままこのポジションで勝負してみる?

「出ろと言われればどこでもやります。また次もありかな」

 いたずらっぽく、ちょっとだけ不敵な笑いを浮かべたところに、理由など分からなくても大きな手応えを得た充実感がにじみ出ていた。