上写真=杉岡が左足を振り抜き、決勝点を決める
写真◎福地和男

「勢いに乗っている」と思う

 会場に詰めかけた4万4242人の度肝を抜くようなミドルシュートだった。36分、湘南の杉岡大暉はゴール中央付近でボールを受けると、相手キーパーを見ることもなく、迷わずに左足を思い切り振り抜いた。

「コントロールしてコースを狙うようなタイプではないので。いい場所にいいシュートが飛んでくれただけ。ゴールが決まった瞬間も本当に入った、という感じだった」

 おどけた笑顔で振り返る言葉に嘘はない。東京五輪世代のU-21代表は1週間前にも、J1リーグの札幌戦で中距離レンジからゴールを決めており、そのときも同じような感想を口にしていた。公式戦で2戦連続のミドルシュートでのゴール。誰よりも驚いているのは本人だった。

「ミドルが続いたのはたまたま。自分で勢いに乗っているな、とは思っていたけど、札幌戦で何か特別な手応えをつかんだわけではない。シュートの感触も足に残っていないので」

 それでも、練習は嘘をつかない。今季は得意のアーリークロスだけでなく、武器を増やすためにミドルシュートにも取り組んでいる。大舞台でその成果を出し、決勝点を叩き込んで大会MVPを獲得。表彰式でマイクを向けられると「最高です」と声を張り上げ、満面の笑みを浮かべた。興奮が少し冷めた試合後、再び水を向けると、「僕の場合、あれこれ余計なことを言わず、シンプルが一番。きょうは最高です」と静かに笑った。言葉にもプレーにも無駄がない。

 高卒1年目の昨季はJ1昇格に貢献し、2年目の今季はルヴァン杯初優勝の立役者となった。曺貴裁監督から「スポンジのような吸収力がある」と言われる成長株は、湘南でまだまだ大きくなる。20歳でプロ初タイトルを手にしても「これはゴールではない」と言い切り、10月30日のリーグ戦(磐田戦)にすぐに気持ちを切り替えていた。

取材◎杉園昌之 写真◎福地和男、近藤俊哉