ガイナーレ鳥取MF文仁柱が、母校の英雄への思いを語った。川崎フロンターレなどで一時代を築き、子どもの頃からプレーを見ていた朝鮮大の大先輩、鄭大世が現役引退を発表。Jリーグで活躍してワールドカップにも出場し、特別なキャリアを築いたヒーローのような活躍も、自分も見せたいと思っているという。

上写真=朝鮮大から加入1年目の文仁柱。シーズン終盤になって出場機会を増やしている(写真◎石倉利英)

「勇気や希望を与えてくれました」

 11月6日の明治安田生命J3リーグ第32節、アウェーでのAC長野パルセイロ戦に左サイドハーフで先発出場した文仁柱は、0-1で迎えた後半立ち上がりの47分、FW澤上竜二が左サイドに流れてパスを受けた瞬間に前方のスペースへとダッシュ。FW田口裕也とのパス交換でエリア内からセンタリングを送ると、こぼれ球を田口が蹴り込んで1-1に追い付いた。

「あの位置に走り込んだからこそ、生まれたゴールだと思う」と振り返った文仁柱は、それまでは左サイドバックでスタートすることが多かったが、この日のポジションは1列前。攻撃面の働きを求められる状況で、2-1の逆転勝利につながる働きを見せた。

 シーズン終盤に入って出場機会を増やし、前節までリーグ戦13試合に出場して1得点を挙げているルーキーは朝鮮大出身だが、同大出身の英雄が先日、大きな区切りを迎えた。朝鮮大から川崎フロンターレに進んで海外クラブでもプレーし、2021年からFC町田ゼルビアでプレーしていたFW鄭大世が、今季限りで現役を引退することが発表されたのだ。

 鄭大世はクラブだけでなく北朝鮮代表でも活躍し、2010年南アフリカ・ワールドカップに出場している。当時小学生だった文仁柱は、ブラジルとのグループステージ初戦の国歌斉唱の際、号泣した姿などをテレビで見ていたという。その後に北朝鮮と日本がワールドカップ予選で対戦したときは、埼玉スタジアムまで応援に駆けつけたそうだ。

「在日コリアンでも、J1や代表の舞台で活躍できることを見せてくれた。僕たちに勇気や希望を与えてくれました。大学の先輩として、一人のサッカー選手として尊敬しています。いつか自分も同じように、たくさんの人に影響を与えられる存在になりたい」

 朝鮮大在籍時に一度だけ本人に会ったことがあり、当時まだ鳥取への加入は決まっていなかったたため、プロでのプレーなどについて話を聞いた。2020年に東京五輪の予選を兼ねたAFC・U23選手権に臨むU-23北朝鮮代表に選ばれている文仁柱は、Jリーガーとなり、偉大な先人が切り開いた道で一歩ずつ後を追っている。

取材・写真◎石倉利英