ガイナーレ鳥取のGK糸原紘史郎が『夢の舞台』に立った。サンフレッチェ広島との練習試合で、広島ユース時代にあこがれていたピッチでプレー。広島への熱い気持ちを思い出し、鳥取でのさらなる成長を誓った。

上写真=広島との練習試合で45分間プレーした糸原(写真◎石倉利英)

「変な感じだった」

 3月27日に45分×3本で行なわれたサンフレッチェ広島とガイナーレ鳥取の練習試合で、鳥取のGK糸原紘史郎は3本目の45分間プレーした。持ち味のロングキックでカウンターのチャンスを作ったり、ピンチでの好セーブも見せたが、23分に強烈なミドルシュートを決められて失点。鳥取は41分にDF西山雄介が同点ゴールを決め、3本目だけなら1-1の引き分けに終わったものの、試合後は「自分のストロングポイントを出せたのはよかったけど、失点はゼロに抑えたかった」と反省点を口にした。

 この日の試合会場は、広島の練習場である吉田サッカー公園の天然芝ピッチ。糸原にとっては『夢の舞台』だった。

 鳥取県出身で、地元のFCカミノから高校進学と同時に広島ユースに加入した糸原は、3年間のプレーでトップチーム昇格を目指した。広島のトップチームとユースは同じ吉田サッカー公園で練習しているものの、トップチームが天然芝ピッチを使うのに対し、ユースは人工芝。ユースの選手がトップチームの練習に呼ばれることもあるが、距離にして50メートルも離れていない2つのピッチには、プロの狭き門を感じさせる歴然とした差がある。

 糸原が天然芝ピッチでプレーしたのは、「ユースとトップチームの練習試合で、ユース側で少し出させてもらったとき」だけで、最終的に「3年間、トップチームの練習に参加したことはなかった」という。ユース卒業後、びわこ成蹊スポーツ大に進んで力を伸ばし、昨年8月に今季の鳥取加入が内定。同年9月に鳥取と広島がJリーグ育成マッチデーで対戦したとき、特別指定選手として後半の45分間、出場したが、このときの会場は鳥取のホーム、チュウブYAJINスタジアムだった。

 ユース時代、そこで練習するプロとしての将来を夢見ていた天然芝ピッチ。「あこがれていたチームと吉田で対戦することができて、いろいろなことを感じた」と感慨にふけった糸原は、その場所で広島相手にゴールを守っていることが「変な感じだった」という。金網の外にはユース時代のスタッフや、大学3年時のインターンでお世話になった関係者が来ており、「紘史郎、頑張れ!」と声援も。さまざまな思いを抱えながらのプレーを「緊張したけど、成長したところを少しでも出せたかな」と笑顔で振り返った。

 鳥取のGKの定位置争いは、今季ガンバ大阪から完全移籍で加入し、広島戦の1、2本目でプレーした田尻健がリードしている状況。糸原はライバルについて「田尻さんを日々見ていると、一つひとつのプレーをていねいにやり切って、試合につなげるところは秀でている部分だと思う」と分析する。

 GKは、一つしかないポジションを勝ち取らなければいけない。それでも糸原は、あの頃の気持ちを思い出していた。

「このピッチでいつか、あのユニフォームを着て、サンフレッチェ広島の選手としてプレーしたいと、強く思いました。僕が目指すところは、やはりここなんだと再認識した、良い時間になった」

 その上で、定位置をつかむためにやるべきことは「細かいところを一つひとつやっていかなければいけない。ストロングポイントを伸ばし、ウイークポイントを感じさせないように」と認識。プロを目指した原点の地に立ち、鳥取でのさらなる成長へのモチベーションを高めていた。

文◎石倉利英 写真◎石倉利英