上写真=ヒーローになった姫野誠と、彼を起用した小林慶行監督。ともに昇格プレーオフのキーマンになった(写真◎J.LEAGUE)
「とがった」チームにバランスを
ジェフユナイテッド千葉が実に17年ぶりとなるJ1復帰を決めた。
今季のJ2を3位で終えて昇格へのプレーオフに臨み、準決勝でRB大宮アルディージャに0-3とリードされながら残り16分でひっくり返し、4-3と劇的な逆転勝利を収めた。徳島ヴォルティスとの決勝は満員に埋まったフクアリでサポーターの声援を背に1-0で勝利をつかみ、ついにJ1復帰を果たしたのだった。
1993年に開幕したJリーグの当初からのメンバー「オリジナル10」の一員である千葉はリーグでの優勝こそないが、2000年代にイビチャ・オシム監督を迎え「考えて走る」チームとなり、2度のリーグカップ優勝など成果を残した。しかし、オシムが日本代表監督に就任してチームを去ると、はじめは息子のアマルが指揮を執ったが、父のようにはいかず、チームは徐々に低迷していく。
2009年には皮肉にもフクアリに隣接するトレーニング施設が完成したにもかかわらずJ2へ降格。当初はすぐに上がれるだろうとの楽観論もあったが、何度も後一歩という状況に持ち込みながら結局昇格はかなわず、J2での戦いを余儀なくされて16年という月日が流れた。
2023年に就任した小林慶行監督が積極的かつ攻撃的なプレーを押し進めてチームを活性化し、この年は6位でぎりぎりプレーオフに臨むも初戦で敗れ、2024年はプレーオフ圏内も逃した。それでも、クラブは小林監督の留任を決めた。これが結果的に今回の昇格につながった。
徳島戦後、小林監督は「3年間で積み上げたものが大きかった」と話したように、2年間取り組んだ攻撃的サッカーをさらに推進するだけでなく、足りなかったところへの修正に目を向けた。これまで続けてきた前線からのプレス、両サイドからの鋭い攻撃など「とがった部分」に「バランスを取ることも必要」と対戦相手や試合の流れによって、守備に重点を置く戦い、耐える戦いも取り入れた。その効果が確実に結果を残せるようになり、悲願達成に至った。
これまでJリーグで攻撃的なチームを作ろうとして失敗した例は少なくない。攻撃面では成果を挙げ、対戦相手に恐れられるサッカーを築き上げても、タイトルには手が届かないチームもあった。しかし、代わって次に指揮を執った監督が、守備を整理して成功したのが過去のサンフレッチェ広島(森保一監督)や川崎フロンターレ(鬼木達監督)だった。
その点、今回の小林監督のチームづくりや采配は、攻撃的なチームに守備も踏まえた戦い方を加えることを一人で成し遂げた例になると言えるかもしれない。
それはここ3週間の戦いにも象徴されていた。J2最終戦のFC今治戦で攻撃的なプレーを展開し、自分たちの流れに乗って多くのゴールも奪い、5-0で快勝。大宮戦では脆さを見せて失点を重ねたものの、パニックに陥ることなく精神的な強さを見せて立ち直り、大逆転勝利につなげた。そして徳島戦は、時間帯によって耐える戦いで試合運びに成熟さを示して勝ち切った。
J1昇格は千葉にとって最大の目標で、それを成し遂げたのは小林監督のチーム作りの成果だった。ただしJ1に復帰しただけでは意味がない。それは監督も選手たちも承知しているはずだが、来季J1で何ができるかが重要となる。小林監督が引き続き指揮を執るのであれば(執らないという理由は思い当たらないが)、J1でも攻撃的な「とがった」部分はなくさずに、より成長したプレーを見せてもらいたい。
長きにわたる低迷の要因はさまざまあるだろうが、端から眺めてきて感じるのが、かつて強みだった育成の充実が失われたこと。Jリーグ開幕後には阿部勇樹、佐藤勇人、寿人兄弟、山口智、酒井友之、山岸智など、日本代表でも活躍するような選手を育成組織から次々に生み出していたが、それが低迷期を迎えると同時に途絶えてしまった。
舞浜で活動していた育成部門を千葉に移すに当たってさまざまな問題が生じたようだが、J2で過ごす間にはかつてのような人材を輩出できなかった。そこに光明が見えたのが今回の姫野誠の活躍だ。アカデミー育ちの17歳は、今年カタールで行われたU-17ワールドカップにも出場し、鋭いドリブル、思い切りのよいシュートで攻撃を活性化するプレーを見せていた。
大宮戦で途中交代してトップデビューを果たすと、チームを勢いづけ、同点ゴールまで挙げて驚かせた。その活躍が徳島にも存在を意識させ、登場すると試合の流れが変わり、決勝点にもつながった。アディショナルタイムに自らがつかんだチャンスをものにしていたら、とんでもないヒーローになっていただろう。
ただこのプレーには、小林監督は逆にホッとしていたかもしれない。大宮戦の後でも騒がれ過ぎることを懸念していたからだ。姫野はテクニック、アイディアも素晴らしいが、この大舞台にいきなり登場して自分の良さを出せる、まったく物おじしないでプレーできるメンタルが際立っていた。
こういう選手が出てくるなら、アカデミーの育成も改善されてきているのだろうと思わせた。J1復帰を機会にさらに力を入れることはクラブの今後を左右する重大な条件になる。育成部門をさらに充実させることがJ1に定着することにつながるはずだ。
文◎国吉好弘