11月10日、中村俊輔が引退記者会見に臨み、26年のプロ生活を振り返った。まだ横浜FCの一員として練習は続けているといい、気持ちは現役選手のままだというせいか、涙はなし。清々しく笑顔でキャリアを語った。

上写真=中村俊輔は最後まで爽やかな笑顔で現役時代を振り返った(写真◎福地和男)

中村が唯一「悲しい思いをした試合」

 小野伸二、川口能活、遠藤保仁、長友佑都、岡崎慎司、ゴードン・ストラカン、そしてカズと、これまでともに戦ってきた仲間や、セルティック時代の監督から届いたメッセージ動画で、記者会見はスタートした。中村自身が「明るく楽しい時間にしましょう」と言ったとおりに、涙はなし。

「1月1日まではまだ横浜FCの選手なので」と、いまでもトレーニングやトレーニングマッチに参加。仲間からは「来年もまだやるんじゃないか」と言われているそうで、引退の実感は「徐々にそういう気持ちになっていく」と、いまだにプレーヤーの感覚だという。ボールを蹴ることが何よりも好きなこの人ならではのエピソードだ。

 サッカーを始めてからずっと、自分を突き動かしてきたのは「うまくなりたい」という気持ちだったと振り返る。

「サッカーが好きで、それに尽きますね」

 26年のプロキャリアの中で誇りに思うことの象徴が、サッカーノートだ。向上のために重ねてきた努力を書き綴ってきた。

「高校のときにサッカーノートを書くようになって、漠然と中期、長期と目標を書いていたんですけど、目標をどんどんどんどん越えていって、最後には日本代表で10番をつけてワールドカップに出るということも達成できた。そうやって目標に向かって努力できたことじゃないかな」

 その重要なファクターになったのは、やはり代名詞になった鮮やかなFKだろう。「意識したのはプロになってから」で、「ゲームを支配する力としてドリブルやスルーパスなどがあって、ちょっとしたおまけの感覚でやっていただけでした」というのが、FKへの最初の向き合い方だったと明かす。

「でも、気づくとフリーキックが残ったというのは、自分でも不思議な感じですけど、やっててよかったなという感じですね」

 自分の存在価値を認めてもらうためのツールになった。重要な道標だと言ってもいい。

「PKと同じ感覚で決める意識はありました。蹴ったら必ず入る、という状況をチームメートにも見せて信頼してもらうようにしました。それがこだわりかもしれないですね」

 印象に残った試合を聞かれて選んだのは、セルティックの一員として大活躍したUEFAチャンピオンズリーグでも、ワールドカップでもなかった。

「松田(直樹)選手が亡くなられて次の試合が、アウェーのレイソル戦でした。まったく足がボールに、地についていない感じで…。過去にその1試合しかないですね、悲しい思いをした試合は」

 2011年8月6日の柏戦。中村は89分までプレーしたが0-2で敗れている。「マツさんが見ていたら『ダセえ』とか『弱っ』って言われそう」という中村の悔しさを、当時のサッカーマガジンは伝えている。

「マツさんだったらいまなにを考えてるかな、こういう状況でどう考えるかなと思うようになりました。僕を変えようといてくれた人なので、本当に残念だったけど、次に進まなければいけないですから、そういう思いでやっていましたね」

 最高の喜びを味わいながら、繰り返し訪れる大きな挫折や悲しみを乗り越えて、前に前にと歩んできた26年間。

「やり尽くしたという清々しい気持ちで終われたので、自分でもホッとしているという気持ちです。26年間ありがとうございました」

中村俊輔(なかむら・しゅんすけ)
■生年月日:1978年6月24日(44歳)
■身長/体重:178cm/71kg
■出身地:神奈川県
■チーム歴:
横浜深園SC-日産FC Jrユース-桐光学園高-横浜マリノス/横浜F・マリノス-レッジーナ(イタリア)-セルティックFC(スコットランド)-RCDエスパニョール(スペイン)-横浜F・マリノス-ジュビロ磐田-横浜FC
■Jリーグ初出場:1997年4月16 1997 Jリーグ 1stステージ 第2節 横浜M(vs G大阪@三ツ沢)
■Jリーグ初得点:1997年5月3日 1997 Jリーグ 1stステージ 第6節 横浜M(vs平塚@三ツ沢)
■代表歴:通算:98試合出場/24得点
1997年 FIFAワールドユース選手権大会
2000年 シドニーオリンピック、AFCアジアカップ2000
2003年 FIFAコンフェデレーションズカップ2003
2004年 AFCアジアカップ2004
2005年 FIFAコンフェデレーションズカップ2005
2006年 2006FIFAワールドカップ
2007年 AFCアジアカップ2007
2010年 2010FIFAワールドカップ
■獲得タイトル:
2000年 Jリーグ 1stステージ 優勝、AFCアジアカップ2000 優勝
2001年 Jリーグヤマザキナビスコカップ 優勝
2004年 AFCアジアカップ2004 優勝
2005-06年 スコティシュプレミアリーグ 優勝、スコットランドリーグカップ 優勝
2006-07年 スコティシュプレミアリーグ 優勝、スコティッシュFAカップ 優勝
2007-08年 スコティシュプレミアリーグ優勝
2008-09年 スコットランドリーグカップ優勝
2013年 第93回天皇杯全日本サッカー選手権大会 優勝
■個人タイトル:
Jリーグ年間最優秀選手(2000,2013)
Jリーグベストイレブン(1999、2000、2013)
スコットランド・プロサッカー選手協会年間最優秀選手(2006-2007)
スコットランド・サッカー記者協会年間最優秀選手(2006-2007)
スコットランドリーグ年間最優秀ゴール(2006-2007)
AFC アジアカップMVP(2004)
AFC アジアカップベストイレブン(2000、2004)