スタジアムが大きくどよめいた。5月15日の「Jリーグの日」に行われた明治安田生命J2リーグ第16節で、FC町田ゼルビアが首位のアルビレックス新潟を2-0で破ったゲーム。29分に決まった山口一真のブレ球FKによるスーパーゴールが、試合を大きく動かした。

上写真=山口一真はスーパーゴールを決めるとベンチに一直線!(写真◎J.LEAGUE)

■2022年5月15日 J1リーグ第16節(Gスタ/6,287人)
町田 2-1 新潟
得点者:(町)山口一真、鄭大世
    (新)鈴木孝司

「本当に入ったか確認しました」

「ゴラッソ、だよ」

 ランコ・ポポヴィッチ監督も舌を巻いた。29分、ゴールのほぼ正面、30メートル以上はあろうかという距離のFK。

「以前、同じような位置からフリーキックがあって、今回は蹴り方を変えてみようと思って。GKコーチの(武田)治郎さんに教わったキックを試そうと蹴ったら、入りました」

 決めたのは、山口一真。軽快な助走から右足を振ると、ボールは猛烈なスピードで不規則に揺れ動いて、そのままゴール右上に飛び込んだ。「十分に射程の範囲内」と自信を持って蹴った一撃に、「天空の城」野津田の町田GIONスタジアムがどよめいた。

 あんなにすごいゴールを導いた、武田コーチのアドバイスが気になる。

「腹筋に力を入れて蹴れ、と。体の力のボールへの伝え方がすごく理にかなっていて、半分以上、教えてくれた治郎さんのゴールです」

 決まった瞬間は、真っ白。

「いつも点を取るイメージはしているのですが、あのときは頭が真っ白になって、本当に入ったか確認しました」と笑わせたが、本当に決まったことがわかると、ベンチに一直線、ポポヴィッチ監督に抱きついた。

「点を取れない時期にも監督が使ってくれて、その気持ちを感じていたので、初めて点を取ったら監督のところに行こうと思っていました。それに、僕のゴールというよりみんなで取ったゴールなので、みんなで喜びを分かち合いたかった」

 半分は武田コーチのもので、残り半分は全員のもの。自分の分が少しも残っていないけれど、それでいいのだ。

「大ケガをしたシーズンは15点を取ってJ1から声がかかっていたけれど、オファーが取り下げられました。松本山雅に拾ってもらって感謝しているし、声をかけてくれた中で期待に応える活躍ができなくて降格してしまって、でも、また町田が声をかけてくれました。監督が僕のことを信頼してくれるのが伝わってきますし、今日負けたら順位が下がるところだったから、勝ててとてもうれしかったし、思い出深いゴールになりました」

 水戸ホーリーホックでプレーしていた2020年11月に、左ひざの前十字じん帯損傷および左ひざの外側側副じん帯損傷という重傷を負った。

「日々、辛いリハビリをしてきたし、精神的にもとてもきつくて、サッカー選手としてどれぐらい続けられるだろうかと考えました。でも、自分を信じて、自分にしかできないことがあります。今日はたまたまいい日になりましたけど、ここからたくさんのゴールを取らないといけないので、そのきっかけの一発目になったと思います」

 まさに、山口にしかできないキックを見せた。これが移籍後初ゴール。始まりの「第1号」である。

取材◎平澤大輔 写真◎J.LEAGUE