アルビレックス新潟は開幕から3試合連続でドローとなった。チャンスの数は相手よりも多いものの、負けてはいないが勝ててもいない。3月5日の明治安田生命J2リーグ第3節レノファ山口FC戦で、ホームデビューを果たした新戦力・伊藤涼太郎が感じた強い後悔とは。

上写真=伊藤涼太郎はホームでデビューして今季初のフル出場、同点ゴールもアシストした(写真◎J.LEAGUE)

■2022年3月5日 J2リーグ第3節(デンカS/10,738人)
新潟 1-1 山口
得点者:(新)本間至恩
    (山)大槻周平

「攻撃の選手として責任を感じています」

 不甲斐ない、が「デビュー」にまつわる第一声だった。

 3月5日、アルビレックス新潟が3試合目にして迎えたホーム開幕戦は、レノファ山口FCを迎えて行われた。今季、加入した伊藤涼太郎にとっては、新潟の一員としてビッグスワンでプレーする初めての試合だった。だから、どうしても勝ちたかった。

「素晴らしいサポーターのみなさんがいい雰囲気を作ってくれたにもかかわらず、勝ち点3を取れずに不甲斐ないです」

 58分に先制を許し、そこから逆襲して1点は返したものの、2点目が近いようで遠かった。

「仙台戦、大宮戦に続き、また決めきれない、勝ち点3を取りこぼす試合をしてしまいました。攻撃の選手として責任を感じています」

 ここまで3試合すべてに出場して、この山口戦で初のフル出場。確かに勝ち点3は手にできなかったが、最低限の「1」をもぎ取ったのは伊藤のプレーのおかげでもある。

 77分の同点ゴールのシーン。自陣で相手のミスを引っ掛けたこぼれ球を千葉和彦から渡された。前を向くとスペースがある。そのまま持ち運び、左の本間至恩に届けて同点ゴールをアシストした。ラストパスの精度は、決めた本間が「ほしいタイミングでスルーパスをくれて」と絶賛するパーフェクトなもの。伊藤が考え抜いた最高の「タイミング」のたまものだった。

「相手のボールを奪ってカウンター気味になって、前にスペースがあったので運ぼうと思いました。相手の枚数は多かったけれど、右サイドバックの選手が高い位置を取っていたので戻りが遅れていたのが見えたんです。そこですぐ出すと、至恩が一人かわすことになるので、自分が運んだことによって(本間とGKとの)1対1の状況に持っていくことができました」

 早いタイミングで出すこともできたが、そうすれば戻ってきた眞鍋旭輝がそのままの勢いで本間に狙いを定めることができるから、止められる危険性があった。しかし、伊藤が少し長く運ぶことで、眞鍋の目線を自分に引きつけた。その瞬間に裏に出したから眞鍋を無力化することができて、本間が誰にも邪魔されずにゴールに向かうことができた、というわけだ。一瞬の深い思考がもたらした絶妙。

 松橋力蔵監督が仕込む4-3-3システムで、要となるインサイドハーフのポジションで高木善朗と並び立つ。高木が前に出れば少し下がってボールを引き出す役を受け持ち、逆に高木が下がれば自らゴール前のスペースに飛び出してチャンスに関与した。相手のDFラインと中盤のラインの間でボールを受けてラストパスを何度も試みたり、55分には千葉がインターセプトしたボールを中央で受けて、右にずらしてから強烈なミドルシュートを放っている。73分にも素早いトランジションで奪った本間から中央で受けて落ち着いて右に流し、谷口海斗の強烈なシュートを導いているし、80分には自ら左足でミドルシュートで狙っている。

 共通しているのは、いずれも中央でボールを引き出していること。狭いエリアにもぐり込んでから、正確な技術と高速の判断力を生かして、相手が嫌がる場所で仕事をする特徴を存分に見せつけた。

 それでも、勝てない悔しさが強い言葉に込められる。

「自分のゴールで勝利したかったし、試合前にも今日は決めるんだという強い意気込みで臨みました。もちろん、誰が決めてもいいから勝ち点3がほしかったし、自分にもチャンスがあったのに決めきれずに、勝ち点1で終わってしまって悔しかった」

 それでも、試合をこなすごとに、その存在感は増すばかり。エースの高木や本間に加わった、新しい新潟の魅力になろうとしている。

写真◎J.LEAGUE