アルビレックス新潟で2試合連続ゴール中の矢村健。明治安田生命J2リーグ第8節のツエーゲン金沢戦で今季初出場初ゴールで1-0の勝利をもたらすと、続く第9節の栃木SC戦では完璧なオーバーヘッドで決めてみせた。だが、本人はいたって冷静。無欲で挑む愛媛FC戦でも、変わらずチームの一員としてやるべきことをやるだけだ。

上写真=アマ時代も含め公式戦でオーバーヘッドで決めたのは初めてだったという。矢村健のパーフェクトな一撃が話題になった(写真提供◎アルビレックス新潟)

美、芸術、喜び、創造性、エンターテイメント

 ミッドウィークの話題を独り占めしたのではないだろうか。アルビレックス新潟の矢村健が見せた、あまりにもきれいなオーバーヘッドキックによるゴール!

 4月21日、J2第9節の栃木SCで飛び出したこの一発に、アルベルト監督も試合直後に「おそらく今シーズン最も素晴らしく、美しいゴールの一つ」と絶賛し、自身のツイッターでも「ケン、美しいゴール、おめでとう。そう、フットボールは美であり、芸術、喜び、創造性、そしてエンターテイメントなのです」と褒め称えた。さらには、このシュートそのものの美しさはもちろん、島田譲の左サイドからのサイドチェンジに始まり、高木善朗と藤原奏哉のコンビネーションによる右サイドの組み立て、高木のストレート系のセンタリングも含め、総合的にハイクラスな一撃だった。

「ただ…」と矢村本人は改めて振り返るのだ。

「勝ちきれていないので満足してはいけないと思ったし、そこは切り替えられてはいます」

 その一発で先制したものの、栃木に許した同点ゴールは、自分が競り合いきれずに目の前でヘディングを決められたものだった。後半には逆転までされて、最後になんとか千葉和彦のヘッドでドローに持ち込んだ、というぎりぎりの勝ち点1だった。

「まだまだ伸びしろはあるなと感じています」

 今季初出場となったその前のツエーゲン金沢戦でも交代出場で決勝ゴールを決めているし、オーバーヘッドキックの美しい記憶も色褪せることはない。だがその活躍の分だけ余計に、続く試合で結果を残さなければならないという危機感は増している。

「まだ2試合に出ただけで、シーズンがこれで終わったわけではないですし、何か勝ち得たわけではありません」

「自分はまだ定着しているわけではないので、もう一度気を引き締めて自分と向き合う期間と感じています」

 生来の生真面目さに加え、今季は本来のFWとは異なるサイドでの役割を与えられていることも、この必死さにつながっている。

 光明は、コンバートを指示したアルベルト監督の思想にありそうだ。金沢戦ではロメロ・フランクの負傷による交代出場だったが、右サイドハーフのポジションではこれまで、星雄次が投入されるケースが続いていた。なぜここで、星ではなく矢村だったのか。

「スペースへの飛び出しが彼のストロングポイントの一つだと思っています。我々のスタイルの中で攻撃で重要視しているのは、足元でもらうのが得意な選手とスペースへ飛び出す選手とのバランスです。あのときのバランスとして、(谷口)海斗はスペースへの飛び出しが得意で、前線でプレーしていた善朗、(本間)至恩はより足元でのプレーが得意な選手です。ですから、バランスを取るために矢村を入れたのです」

 アルベルト監督が明かした、バランスに気を配るその目利きが、カウンターからの矢村の決勝ゴールで結実した。そこに「キングケン」の異名を取る男の生きる道がありそうだ。

「練習等ではサイドでのプレーに慣れてきていましたが、いざ試合となると練習とは違う風景なので、試合を通じて課題はたくさん出ます。慣れはしたけれど、まだまだ伸びしろはあるなと感じています」

「ビルドアップ時の立ち位置だったりボールへの関わり方、攻撃では最後の質やしっかりクロスを通すことやシュートの数を増やすことです」

 そう言って、成長へのステップを洗い出す毎日だ。

 そして、4月24日の第10節愛媛FC戦では3試合連続ゴールへの期待がかかる。

「余り気にしないようにというか、それ以外の部分で求められていることややるべきことがあると思うので、意識を向けていません。もちろん点が取れるのが一番いいですけど、気にしていません」

 無欲のゴールが生まれるか。