上写真＝矢村健（39）が決勝ゴールを決めて雄叫び。そして仲間たちも初出場初ゴールを最高の笑顔で祝福だ（写真◎J.LEAGUE）
■2021年4月17日 明治安田生命J2リーグ第8節（＠デンカS/観衆10,148人）
新潟 1-0 金沢
得点：（新）矢村健
「何も考えずにコースに流し込むだけだと」
その一瞬に集中した。
矢村健はそのとき、本間至恩がセカンドホールを拾ったのを見て、まっすぐにゴールに向かってスピードアップした。DFに向かってドリブルを仕掛ける本間の横に追いつくと、優しいパスが出てきた。
「9割は至恩がセンターバックを引きつけてくれたからキーパーと1対1になって、何も考えずにコースに流し込むだけだと思って、ファーストタッチに集中していました」
キーパーを見て、右足でていねいにシュートポイントにボールを押し出してから、もう一度キーパーを見てからしっかりと右足でフィニッシュ。GKの左を抜いてゴール左に突き刺した。そのままピッチを横切るようにベンチメンバーの元へダッシュして、歓喜の雄叫びだ。77分の決勝ゴール。
「今年始まって、チームがいい流れでここまで来ていて、その中で自分は今日の金沢戦が初出場で、その中でしっかり点を決めて結果を残せたのはすごく安心というか……一安心している部分ではあります」
開幕から3試合はベンチには入っていたが出番はなし。その後は右足首のケガの影響もあって、ベンチメンバーからも外れた。その間、チームは絶好調。「焦りは少なからずあったのは正直なところです」と明かすが、「でもチームが勝つことが一番で、素直に応援するのは大事にしていることです。だから、焦りよりも、自分が何をすべきかを考えて、ケガを直してコンディションを上げることだと、ある意味分けてとらえられていたと思います」と、チャンスが巡ってくるときに備えていた。
そのときが、来たのだ。
「今日は今日として切り替えて」
前半からツエーゲン金沢のタイトな守備に苦しむ展開で、ロメロ・フランクが足を痛めたために、65分に交代で右サイドハーフに入って今季初出場を果たした。アルベルト監督は「攻守の切り替えが早いのが彼の長所でした。今日は右サイドでその切り替えの素早さが明確にうまく表れて、ゴール決まって勝てたことをうれしく思います」と起用の理由を明かす。これまでであればサイドハーフに星雄次を投入することはあったが、ここで矢村を選んだのは采配の妙でもあった。
矢村は本来はFWだが、この日の右サイドハーフや右サイドバックでもテスト。プレーの幅を広げる毎日だった。
「いろんなポジションを経験して、今日なら右ウイングでしたけれど、ほかにも選手はたくさんいるし、誰が出てもしっかり勝ちきれるのは今年の強みです。そういう部分では今日も始まりに過ぎないと思います」
ゴール直後は喜んだものの、会見では少しはにかむぐらいで、終始ポーカーフェイス。うれしくないはずはないが、まだ1点を取ったに過ぎないと自分に言い聞かせるようだった。
「これから先、長い戦いなので、ケガやコンディションの問題も出てくる中で、いまあまり出ていない選手がそこを上げていけるかが大事になってきます。引き続き、今日は今日として切り替えて、次の練習から臨みたいと思っています」
新潟にはまだ出場機会のない選手たちが、次は自分の番だと信じて準備を怠らない。そうした「居残り組」の意地とチームの一体感を代表して伝えるかのように、矢村の言葉には力がこもるのだった。
写真◎J.LEAGUE/ALBIREX NIIGATA