就任1年目でアビスパ福岡をJ1昇格に導いた長谷部茂利監督。その手腕が高く評価されているが、「勝利と感動」の両方をていねいに追い求めた結果だった。昇格を果たしたいまの思い、そして最終節への意欲をたっぷりと語った。

上写真=長谷部茂利監督がサポーターへ昇格を報告。いつもは冷静な指揮官もこの笑顔!(写真◎J.LEAGUE)

「感動するタイミングがもっと増えないと」

「泣いていませんよ」

 J1昇格が決まった直後、DAZNの試合中継でのフラッシュインタビューで、そうニコリと笑った目が濡れていた。長谷部茂利監督が就任1年目で大仕事を完遂してみせた。

 J2第41節の愛媛FC戦をきっちりと2-0で終え、V・ファーレン長崎対ヴァンフォーレ甲府戦の結果を待って、引き分けに終わったことを確認して、ようやく安堵した。

 今季は「勝利と感動」を掲げて戦ってきた。勝利だけではない。感動だけではない。

「片手で扱って生半可な気持ちでやったら、感動はないと思います。両手で扱って全身全霊で挑んだ結果、もちろん勝てなかったり昇格できないこともありますけれど、そこに勝利が、昇格が加わることでさらに喜びは増して感動につながります。それを成し遂げるにはものすごいエネルギーが必要ですし準備も必要ですし運も必要で、いろんなことが必要だと思います」

 それをすべてやってのけたのだ。

 どのように成し遂げていったのかは興味深いところだが、長谷部監督が明かしたところによると、こうだ。

「まず吸収する能力が高かったと思います。素直な選手が多かった。年齢に関わらず、新しい監督、新しいスタッフ、新しい選手に囲まれて、みんなが成長したい意欲を感じました。成功や失敗はありますが、公式戦で少しでもチャンスをつかんだ選手が短い時間ながらもトライアンドエラーできたのが成功につながったと思います。全員が急成長したわけではありませんが、全体としてはいい流れにもっていけたと思います」

 当たり前のことだが、それができないチームが多いことは歴史が証明している。だが、長谷部監督と選手たちにはできた。

「難しいプレーや高等な戦術を実行するには時間が必要で、練習を重ねないと2〜3年かかることで、簡単にできるものではありません。私はベーシックな戦術を敷いていますし、誰もができることを徹底すること、高いレベルでできるようにすること、チームとしていかに連動するかというところを同じベクトルでサッカーをしています。それが入りやすかったのではないかなと思います。そして、私は入りやすいと思うからやっています」

 そんな明快な思考が、選手たちの心にまっすぐに入っていったのだろう。

 J1への戦いはもう始まっていると言っていい。5年周期での昇格が続いているということは、上がっても降格してしまうから。それはもう許されない。J1との差を埋めて、上回っていくために必要なことは山ほどある。

 長谷部監督が考えるその差とは?

「ボールを扱う技術、運動能力に差があると思います。それを若さやフレッシュさで補えることもありますが、その部分を上げていく作業、変えていく作業が必要になってきます。また、それに変わるチーム力や組織力が備わっていかないといけないとも思います」

「勝利と感動」の部分では、感動を増やすことが必要だと考えている。

「質だと思います。ボール扱う質です。メンタル的な訴えだけではなくて、サッカーそのものが華麗なプレーだったり力強いプレーだったり、見ている人たちがうまいなとか美しいなと思うタイミング、感動するタイミングがもっと増えないといけないと思っています。今年は連動してボールを奪うというところではそれが伝わっていると思いますから、そういうことが攻撃面でもたくさん出ていくこと、目に止まることがもっと大事になってくると思います」

 その最初の機会が、今季の最終節である12月20日の徳島ヴォルティス戦だ。ホームゲームだから福岡のファン・サポーターに昇格を報告する場であるのと同時に、首位の徳島をたたいて優勝を手にするチャンスだ。ただ、得失点差が開いているため、7点差での勝利が必要になる。

 非常に困難なミッションだが、J1で戦う来季を見据えて挑戦する価値はある。

「私の考えはあくまで42分の1の試合です。勝ち点で追いつくことができれば得失点差のところになりますが、可能性はあるのでそこにトライします」

 長谷部監督と選手たち、クラブとサポーターと関わるすべての人たちが勝利と感動を追い求める旅は、まだまだ終わらない。まずは選手たちがピッチの上で、徳島を相手にそれを表現するだろう。