明治安田生命J2リーグ第23節でアルビレックス新潟はアウェーでFC琉球と対戦する。この夏に新潟に加わった百戦錬磨のストライカー、鄭大世は、移籍後2点目とチームの攻撃力アップを目指して乗り込むのだ。

上写真=夏に加入してから感じていることをどんどんチームに還元していく(写真◎J.LEAGUE/ALBIREX NIIGATA)

「もっと動かなきゃ」

 鄭大世が長いキャリアの中で、沖縄で公式戦を戦うのは初めてなのだそうだ。J2第23節はアウェーのFC琉球戦。

 沖縄といえば、プロで最初のクラブになった川崎フロンターレで、当時の大エース、我那覇和樹(現福井ユナイテッドFC)の出身地だ。

「尊敬してますんでね。川崎でのガナさんは本当に輝いていて、すごかったんですよ。あの頃、ガナさんとジュニーニョがいて、この2人がいる間は僕は試合に出られないなって思っていました」

「今回、選手として素晴らしくて好きだったガナさんの故郷で、琉球王国の文化が残っていて何度も旅行で来ている大好きな沖縄で、すべてにおいてポジティブなイメージの中で公式戦ができるのは本当に幸せなことです」

「ゴールを決めて、ガナさんに喜んでもらいたいですね」

 そうと決まれば、自らのゴールのイメージから逆算して攻撃を組み立てていくだけだ。前節のヴァンフォーレ甲府戦では先発出場。いまのチームの問題点がとても深い解像度で見えていて、仲間たちにクリアに伝えている。

「僕がクロスに合わせるヘディングが得意だからシンプルに上げてくれています。ありがたいんだけど、安易なクロスが多いんですね。緻密な崩しがない。相手に読まれているので、きっと守りやすいと思うんですよ」

「この前の試合ではクロスをできるだけ上げないで崩そうと思って、中でボールに寄っていって崩しのところに参加しようとしました。監督も前では自由にやっていいというスタンスだから、選手でどうすべきか自己判断してトライアンドエラーでやっていきます」

「うまくいっているチームの試合を自分で分析してみると、2列目からの飛び出しや3人目の崩しができているんです。それが答えですね」

 自分の最大の特徴はヘッド。でも、だからこそ単調なクロスを選ぶことだけが正しいわけではない、と諭すのだ。だがもちろん、「サイドバックがいいクロスを上げてくれないと僕は点が取れないから」と、プロとしての要求も忘れない。

「よくオギ(荻原拓也)には言うんですけどね、キーパーを見て上げろ、って。そこに蹴ったらカーブして、キーパーとディフェンスのラインの間を通過するボールになるんです。センターバックのラインを見て上げるともう遅い。この前のオウンゴールになったクロスも、あと2、3メートル前なら(DFの後ろにいた)ファビオも触れたと思うんです。ただ、そのぎりぎりに出せばああいうこと(オウンゴールの誘発)が起こるよ、と」

「いまはほとんどのクロスがニアでクリアされています。同じ高さだとしてももっと深いところに入れてくれればなんとかなるんだけど、いまはそれができないぐらい引っかかっている。そこは(新井)直人にもオギにも話をしていて、クロスが一番簡単なんだから、選手の意識が変わって30パーセントでも精度が向上すれば、ゴールの可能性は格段にアップしますよ」

 そして、もう一つ。

「いま、こっちがボールを持ってビルドアップしているときに、前の方の選手が休むんですよ。ビルドアップを始めたら、もっと動かなきゃ。スプリントするということではなくて、速めのジョグとかランで。守備で疲れたから奪ったら休む、ということじゃなくて、ボールが動いている間に自分たちも動けばマークが外れて前を向けるんだよ、と言ってます」

 2列目の飛び出しと3人目の崩し。クロスの工夫。そして休まないこと。輝きを放っていた先輩FWに沖縄でのゴールを捧げ、攻撃力アップの手ほどきを仲間に与えるために、鄭大世はピッチに飛び出していく。