アルビレックス新潟に所属するDF早川史哉選手は白血病を患いながら治療に専念して、ピッチに戻ってきました。その物語を書籍として発行することになりました。共著者の大中祐二さんと編集協力の平澤大輔が語る、制作の裏側、その3。

書籍「生きる、夢をかなえる 僕は白血病になったJリーガー」の詳細はこちら

※この連載は本書の内容に触れている箇所もありますので、その点をご了解の上、お読みください。

◆過去の連載はこちら→第1回第2回

 

作る側のスピンオフ

平澤大輔 ところで、この本の物理的な部分のことでぜひ読者の方にお知らせしたいのが、装丁・デザインとイラストレーションについてなんです。大中さんとの深い関係からご一緒できることになったデザイナーさん、イラストレーターさんについて、ここで紹介していただけますか。

大中祐二 僕が『ワールドサッカーマガジン』の編集者時代にお仕事をした二人です。大先輩であり、大兄貴分のような感じです。小池アミイゴさんは1998年だったか、あるデザイナーさんに紹介されました。その雑誌の中でスペイン担当をしていた僕は勝手な企画を乱発してたんですけど、弾けたいときにアミイゴさんに描いていただくという勝ちパターンを確立しました(笑)。アミイゴさんご自身がめっちゃファンキーで元気でパワフルで、大好きなんです。

平澤 そして、年齢不詳ですよね(笑)。

大中 そうそう。一向に年を取らないという。

平澤 タカハシデザイン室の高橋雅之さんは私も一度、書籍の装丁をお願いしたことがありました。

大中 自分の宝物のような仕事の一つに、『ワールドサッカーマガジン』でドイツ在住のフォトグラファーのカイサワベさんに連載してもらった「フットボールデイズ」がありました。高橋さんはこのデザインをしてもらったデザイナーさんです。

 いま思い出しても冷や汗が出る事件があったんです。その時代はまだ、原稿となるポジフィルムと文字原稿とラフを事務所まで届けて、できたら受け取りに行って入稿、そして校正をまた届けて確認していただいて受け取りに行って、ということをしていました。事務所は代々木上原だったんですけど、初めて色校を受け取りに行ったときにそれが起きました。

 高橋さん、わざとだったんじゃないかと思うんですけど、チェックミスをしてて、でも僕は気づかなくて、そのまま「ありがとうございま〜す」と言って帰ろうとしたら、「あ、ここチェック漏れでした」って言うんです。要するに、僕が編集者として最後までしっかりと自分の目で確認できる人間なのかを見られていたのでは…。担当を変えろと言われなくて本当に良かった…。

 もちろん、高橋さんは意地悪な人ではないですよ! しっかり仕事をされる職人ということを紹介したかったので、このエピソードを披露しました。

 で、そのデザインに一発KOですよ。サワベさんの写真と原稿の力もありますが、それがデザインの力でさらにこんなに輝くんだというものを毎回目の当たりにさせてもらって。

 こうして、いつか高橋さんとアミイゴさんと一緒に仕事をしたいと思ったんです。何度か『ワールドサッカーマガジン』でコラボレーションが成立したんですけど、今回の書籍を作ることになったときに、僕の中で集大成ではないけれど、またこのお二人とご一緒したかったんです。本当に迷惑かけっぱなしだったけど…。

平澤 その方向から見ても、今回はすごい本になったということですよね。

大中 一人ではできないというか、平澤さんは今回あまり表に出たがりませんけど(笑)、最初に相談に乗ってもらった平澤さんがいなければ前に進むことはなかったし、何よりそこから棄権せずに完走できてよかったです。読者の方には直接は関係ないんですけど、作る側にも物語というかスピンオフのようなものが実はあって、ということです。

一発KO×2

平澤 恥ずかしがり屋の僕のことまでありがとうございます(笑)。そして、そのお二人と今回、お仕事をした感想は?

大中 僕の調子が悪くてご迷惑しかおかけしていなくて、本当に申し訳なくて…。でも、上がってきたものを見てまたもや一発KO。要するに2発食らったわけです。

 まずは高橋さんのデザイン。カバーを外した表紙のところに、グラデーションのかかったオレンジ色の大きな丸があるんです。高橋さんに聞いてはいないんですけど、見た瞬間、これは日本海に沈む太陽だ! と思ったんですよ。オレンジは、アルビレックスのクラブカラーの一つだからというのもあるでしょうけど、高橋さんが山形県の鶴岡のご出身なので、日本海に沈む夕日の素晴らしさ、大きさをご存知で、それをとらえてくれたんだ、と勝手に思ってるだけですけど(笑)。そう気づいたときに、ああうれしいなと思いました。

 アミイゴさんには描くにあたって一度史哉くん自身の姿を見てほしかったので、新潟に来てもらいました。新潟市内から練習場のある聖籠町に向かうにはバイパスを通るんですけど、その場面と思われるイラストも出てくるんです。実は僕が新潟の好きなところは空が広いことで、あのバイパスから見る空がまさにそれなんですね。

 で、お願いしてはいないんですけど、アミイゴさんがそれをイラストで表現してくださっていて。広い空って描くの難しいじゃないですか、透明な水を描くようなものだから。でも、イラストを見た瞬間に、これは新潟の空だよ! って分かって、うれしかったですね。うれしいとしか言いようがなくて。

平澤 あのバイパスから見る空の感じは、私も分かります。本当にその広さを体感できる作品ですよね。早川選手の顔を描いたイラストも素敵です!

大中 高橋さんにしてもアミイゴさんにしても、大御所というか本当にビッグなデザイナーさんでありイラストレーターさんで、技術だけでもものすごいものが出てくるわけです。そこに、なんといったら良いか……日本海に沈む太陽と思われるような一瞬とか新潟の空が盛り込まれているのは、ただただ幸せだなあと思って。

僕がこれまで携わってきた仕事の中で決定的だった「FOOTBALL DAYS」。カイ・サワベさんの写真とテキストが、高橋さんのデザインによって雑誌のページとして誕生する。毎回、圧倒されていました(大中)

「FOOTBALL DAYS」最終回の色校。専門的な話になっちゃいますけど、このときは簡易色校になっていて、色味を確認する色校の意味はなくなっていたのですが、高橋さんの「最終回なので気合い入れておねがいします!!」という熱い赤字が。これを見て、めちゃめちゃ感動したなあ(大中)

“弾けたい企画はアミイゴさんのイラストで!!”の勝利の方程式に則った、ロマーリオの人物もののページ。2002年ワールドカップのブラジル代表に天才ロマーリオが入ってくれることを祈念した連載で、アミイゴさんは毎回、テイストも手法もまるで違うジェーニオ(天才)像を届けてくださいました(大中)

そんな心から尊敬する高橋さん、アミイゴさんとのコラボを形にしたものの一つが、当時、FCバルセロナの中心選手だったルイス・エンリケ現スペイン代表監督に建築家ガウディについて語ってもらったページです。カサ・ミラの屋上でリフティングさせるという、かなり無茶な企画でした(大中)

(最終回に続きます)

大中祐二(おおなか・ゆうじ)
 1969年、愛媛県生まれ。ライター。1994年、株式会社ベースボール・マガジン社に入社し、『相撲』、『ワールドサッカーマガジン』編集部を経て、2004年4月、『週刊サッカーマガジン』(現『サッカーマガジン』)編集部の配属に。J1に昇格したアルビレックス新潟の担当となり、新潟スタジアム(現デンカビッグスワンスタジアム)の4万人を越えるサポーターの熱気に驚がく。現地取材した2002年ワールドカップに引けを取らないエネルギーに大きく心を動かされる。2週間に一度、東京から新潟に赴いてホームゲームを取材することに飽き足らず、2009年、フリーランスとなって新潟に移住。平日の練習をつぶさに取材し、週末の試合を取材して記事にする生活をスタート。以来、12年間にわたってチームの魅力を伝えようと活動を続けてきた。