東京ヴェルディと愛媛FC。パスサッカーを掲げるチーム同士の一戦は、愛媛の川井健太監督の罠によって様相を変えていく。マンツーマン+ロングボールという「割り切り」で、肉を切らせて骨を断つような90分になった。

上写真=川井監督がこの一戦でデビューさせたGK加藤。勝利の原動力になった(写真◎J.LEAGUE)

■2020年9月5日 J2リーグ第17節(@味スタ:観衆1,781人)
東京V 0-1 愛媛
得点:(愛)丹羽詩温

「勝ちながら改善していく」

「ヴェルディさんは僕にとって特別なクラブ」と相手を最大限にリスペクトした愛媛FCの川井健太監督。だからこそ、「相手が嫌がることを考えた」のだという。

 ゴールから逆算して徹底的にボールを動かすのが信条の東京ヴェルディ。それは愛媛も同じで、本来であればボールを大事にしながら戦うのが川井監督のやり方だ。だが、悩んだ末に出した答えはマンツーマンディフェンス。

「守備の部分でマンツーマンでいったところをしっかり整理しました。守備は我々にとっての攻撃であるということを共有しました。攻撃のところでボール握りたかったのですが、守備でパワーをより注ぎました。でもそれは攻撃であるという概念であって、前半は非常に良かったと思います」

 いい守備からい攻撃が生まれるのはサッカーの定石だが、「守備は攻撃と一体化している」とより明確に言語化して選手に落とし込むことで、さらに先鋭化されて浸透していった印象だ。最終ラインを高く保ち、東京Vが狙ってくる縦パスをことごとくつぶしていき、シュートの場面では恐れずに体を投げ出すことによって、バリエーション豊富な東京Vの攻撃を止めていった。

 その分、相手ゴールに向かうところではいわば直線的。「守備から攻撃にかけてのところでは、普段はあまり意識していない背後への一発のパスがこの守備を選択したときには一番チャンスになります。手数をかけずにゴールに行けるのは良かったと思います」として、「マンツーマン+ロングパス」のセットが功を奏した実感を明かした。確かにこの日唯一のゴールも、右サイドから西岡大志がマイナスに戻し、森谷賢太郎がワンタッチクロス、丹羽詩温が右足で豪快に叩き込んだものだったが、西岡大志のところに送り届けられたのは、逆サイドの清川流石からのロングパスだった。

 この試合で明治大卒のルーキーGK加藤大智をデビューさせ、「ゼロに抑えたことがすべて。うちのキーパーグループのレベルは上がっている」と高く評価すれば、ゴールを挙げた丹羽詩温を「最近、丹羽をこっぴどく怒っているのですが、素晴らしいシュートでした」と称えた。前節のFC町田ゼルビア戦でGKへのバックパスがそのままゴールに入るオウンゴールを献上してしまった田中裕人を69分からピッチに送り込むと、体を張った守備でミスを帳消しにする活躍。勝利によってマネジメントの面でも多くの収穫があった90分になった。

 初出場で無失点の加藤は「愛媛らしいサッカーはできなかったけれど、割り切って勝てました」と冷静に振り返った。マンツーマンという戦略を特例的に採用したことで、自分たちを封じることにもなったけれど、東京Vの超攻撃サッカーも封じることで勝ち点3を手にすることができた。

「中身はもっともっと整理して改善しなければいけないところですが、勝ちながら改善していくことに尽きるという試合でした」と川井監督。大きなきっかけをつかむ一戦になったに違いない。

取材◎平澤大輔 写真◎J.LEAGUE