明治安田生命J2リーグで東京ヴェルディが存在感を強めている。第16節では昨年J1のジュビロ磐田にアウェーで2-2のドロー劇。そのチームを背中で引っ張るのが生え抜きの井上潮音だ。成長のシーズンを見逃すと損をする。

上写真=守備に攻撃にと走り続ける井上。東京V再建のキーマンだ(写真◎Getty Images)

夜中の2時に帰ってきて……

 誰かが大人になる瞬間は人それぞれ。井上潮音のそれは、まさにいまかもしれない。

 明治安田生命J2リーグが再開した6月から、全試合で先発出場。東京ヴェルディのアカデミー育ちならではの軽やかなテクニックに、新しい何かを加えたようなプレーぶりには眼を見張るものがある。鬼気迫る、と言ってもいいだろうか。

 それを井上自身は「本気」と表現した。

「サッカーに本気になるというか、真剣になるというか、もう一回、自分を見つめ直しました。真剣にサッカーと向き合うということが今年はできていて、いまはいいサイクルでできていると思います」

 そんな一言を、気負いなくさらりと言うあたりにも、成熟へ向けた精神性を感じさせる。

「去年が終わったタイミングから、永井(秀樹監督)さんに相当、言われたんです。怒られました。そのあたりから自分の中で意識が変わっていきました」

「監督には本当にいろいろなことを言われました。自分に足りないところとか。メンタル的なところが一番影響しているかな」

 そうやって成長を促してくれる人に恵まれるのも、人徳だろうか。

「本気」はどんなところに現れるのかというと、井上自身の意識はこうだ。

「目の前の相手に負けないとか、目の前の試合に勝つとか、本当に単純なことですよ。いまそこで本気でやれていて、そのための準備も含めて、サッカーにすべてを賭けることが普段の生活からできていると思います」

 目の前の相手に負けない、という部分では、メンタル的な部分だけではなく、球際の勝負であきらめないとか、走り勝つといったフィジカル面にも効果が現れている実感がある。

「そういうところで自分のプレーのリズムを作れているのはあります。あとは周りに伝染していってほしいというか、周りがそれで感じてくれればチームのプラスになりますし」

 東京Vは伝統的に才能のある若手がどんどんと育ってきていて、井上もかつてはその一人だったが、いまでは後輩が続々とトップチームで勇躍している。永井監督に成長への道に導かれたように、23歳の大人は態度で後輩たちを促す立場でもある。

「例えば昨日は(ジュビロ磐田戦のあとに)バスで夜中の2時ごろに帰ってきましたけど、そこから洗濯してくれるマネジャーさんとか、僕たちの体のケアをしてくれるトレーナーさんなどを見ていると、疲れたとは言えませんし、みんな疲れているのは一緒です。いまは試合をたくさんできる幸せのほうが大きいです。僕たちは勝利というか、結果でしか返せないと思っているので、そのために恩を返すじゃないですけど、そういう気持ちでやれているのが走れている要因だと思います」

 自分のためではなく、誰かのためにプレーする。だから、成長できるのだろう。