明治安田生命J2リーグは第10節から5連戦が始まる。東京ヴェルディはFC琉球を迎えるのだが、永井秀樹監督にとっても特別な一戦になりそうだ。キャプテンの藤本寛也の移籍前ラストマッチ。勝利で送り出したい。

上写真=「愛弟子」の旅立ちに華を添えるべく、永井監督も戦う(写真◎スクリーンショット)

「いい形で送り出せる試合に」

 指揮官も、迷うことがある。しかも、自分が千々に引き裂かれるように悩むことがある。

 8月5日、藤本寛也がポルトガル1部、ジル・ヴィセンテFCへ移籍することが発表された。キャプテンで攻守の要でピッチの頭脳。そんなキーマンを手放すことになるのだから、苦悩も当然だ。ただ、今回は大きな矛盾との戦いだったと永井秀樹監督は明かした。

「もちろんいまの立場、監督としてはものすごく痛手であることは間違いないですし、残ってもらって一緒にヴェルディを再建しようという話はしました。ただ寛也に関しては、いまの監督という立場と別に、ユースの監督だった自分にとっては1期生の教え子だったこと、そして、サッカー人としてという3つの立場で話をしたので難しかったんです」

「ユースの監督のときに選手たちには、自分の力でヴェルディを立て直すんだ、そして早く世界へ行けと言い続けていました」

「ユース時代の監督、サッカー人としては心から彼の成功を願っていますし、成功することでヴェルディの価値が上がってくる、とようやく自分の中で割り切れました」

「自分が叶えられなかった夢を彼らに託すしかないので、世界の寛也として活躍する姿を見たいと思っています」

 世界へ旅立てと進言した自分と、残れと説得する自分と、夢を叶えてほしい自分。「3人の永井秀樹」の戦いはもちろん、藤本自身の意志によって終わりを告げたのだった。

 であれば、快く送り出せばいい。8月8日のJ2第10節、FC琉球戦が藤本の惜別マッチになる。すでに選手たちには「いい送り出しになる試合をしよう」と伝えていて、「いいサッカーをしてチームとしても大事な仲間をいい形で送り出せる試合になればいいなと思います」と特別な思いを込めて試合に臨むつもりだ。

 ここ3試合はドローで、得点もセットプレーによる1点のみとおとなしい。ただ、チャンスは作り続けているし、失点も1だけと守備の安定を獲得しつつある。だからこそ、意味深いゲームですっきりと勝つことは、藤本にとっても後を任されたチーム全員にとっても重要だろう。

 相手の琉球については「変わらず攻撃的なサッカーしているし、前に人数をかけていい距離感で攻めてきます。警戒してサッカーできるように準備したい」と最低限のチェックは怠らない。だが、主導権を握り続けるのが信条だから、矢印はしっかり自分たちに向けている。

「なるべくたくさん崩して、得点を取れるように良いチャレンジしたいと思います」

 これがシンプルだが究極の目標だ。

 では、チームの現状を踏まえた上で、いまここで必要なこととは?

「やっぱり距離感ではないですかね。自分たちの距離感でできるか。そして相手を見ることができるか」

 注目を集める藤本自身は「いつも通りでいい」と特別視されることを好まないが、いつも通りに攻めていつも通りにゴールを決めて、いつも通りにみんなで喜ぶことが、最高のはなむけになるだろう。