ボールを持ったら前を向いてぐいぐいと突き進んでいくドリブルが魅力の、アルビレックス新潟の本間至恩。J2第5節のFC町田ゼルビア戦では貴重な同点弾を突き刺す活躍だったが、「後ろ向き」でできることを探しているのだ。

上写真=キビキビとしたドリブルは本間の最大の魅力だ(写真◎J.LEAGUE)

■2020年7月15日 J2リーグ第5節(@Gスタ:観衆508人)
町田 3-3 新潟
得点:(町)ジョン・チュングン、吉尾海夏、高江麗央
   (新)田上大地、舞行龍ジェームズ、本間至恩

「シュートを打たないと入らない」

 バチン、と音が聞こえたような気がした。2点を追いつきながら1点を追加されて3-2と突き放されたあとの後半終了間際。右からの大本祐槻のクロスボールをファビオが懸命に足を伸ばして落としてくれた。ペナルティー・エリアの少し外。ほぼ正面。迷いなく右足を振ってボールを叩くと、ゴール右隅に真っすぐ向かっていき、バーを叩いて勢いよく飛び込んでいった。

「自分のミスから失点してしまって、同点ゴールを決められて本当によかったなという気持ちです」

 自分が失ったボールから舞行龍ジェームズがファウル、このFKが壁に当たってCKになり、そこから84分にFC町田ゼルビアの3点目を決められてしまった。これを悔やんでいたから、スーパーゴールの喜びも、これで拾った勝ち点1の充実感も、やや控えめだ。

 それでも、高い技術の一端を見せつける素晴らしいゴールだったことに変わりはない。だから、「ペナルティーエリアの外から積極的に足を振ってゴールにつながったのは良かったと思います。シュートを打たないとゴールは入らないので、積極的に打っていってこれからもシュートレンジを広げたいと思います」とゴールへの活力は高まっている。

 前節で今季初先発をつかんだが、この日はベンチスタートに逆戻り。アルベルト監督が守備を固めた陣容で臨んだこともあったからだが、0-2から1点を返して追い上げムードの67分に出場を告げられ、中央のエリアで活躍してこいと送り出された。

 もともとは、左サイドに開いてボールを受け、ゴールに向かって進んでからカットイン、左45度の「至恩ゾーン」からフィニッシュ、あるいはビッグチャンスを作ったりというアクションでスタンドを沸かせてきた。しかし今年、アルベルト監督が仕込んでいるのは、より中央に入った場所でのプレー。実はこれで、少し悩んでいるようなのだ。

「サイドでプレーしたほうが自分は得意ですけど、チームが求めているのは中でプレーしてゴールに近いところで結果を残すこと。そして、(相手選手の)間で受けること。その質を高めないと、このチームはレベルの高い選手がたくさんいるので試合に出ることができません。もっと基礎の部分を上げていきたい」。最初の一言に苦悩がにじみ出るが、でも今回の同点弾は、右サイドにボールが運ばれている間にゴール正面に走っていったから生まれたものではないか。一つ、壁を突破したのではないだろうか。

 間で受けることの有効性も感じていて、「もらって、前が空いたら得意なドリブルで仕掛けていってシュート、もしくはアシスト、パス、リズムを作ったり、ということを意識しています」。的確な判断を元にして、多くの攻撃の選択肢の中から自分で選択できるという実感がある。とはいえ、自己評価はまだまだだ。「今日は前を向いて仕掛けたときは良かったけど、後ろ向きでもらったときはミスが多くなった。自信を持ってプレーしたらミスが減ると思うので、自信を持ってプレーしたいと思います」と引き締める。

 後ろ向きでできることは何か。本当の大ブレイクに向けて、天才ドリブラーは前向きな模索を続けていく。

取材◎平澤大輔 写真◎J.LEAGUE/Getty Images