田坂祐介が帰ってきた。昨年4月の重傷からピッチに戻り、7月4日の水戸ホーリーホック戦で90分フル出場。ピッチの上でのコミュニケーションも充実して、チームも再開後の初勝利と、復帰戦は多くの点で意味深いものとなった。

上写真=頼もしい存在が帰ってきた。田坂の経験は貴重だ(写真◎ジェフユナイテッド千葉)

飲水タイムの話し合い

 再開後初勝利となる今季2勝目を手にした水戸ホーリーホック戦は、この人にとってはどんな勝利よりも価値あるものになったかもしれない。

「1年以上遠ざかっていたので、やっと戻ってこれたな、と」

 相変わらずクールでシンプルに感想を語ったが、だからこそ重みを感じさせたのだった。

 2019年4月14日、J2第9節のファジアーノ岡山戦で負傷し、右膝前十字靭帯損傷、右膝内側側副靭帯損傷、右膝内側半月板損傷、全治7カ月と発表された。15カ月が経過した今年7月4日、今季初先発の水戸戦でその右膝は強くなっていた。「体力的にも多少余裕がありましたし、前線が点を取ってくれて精神的に優位に立てたのも大きい。公式戦は練習試合とは試合体力が違いましたが、90分出ることができて個人的にも良かったです」

 再開初戦の大宮アルディージャ戦で敗れた千葉は、尹晶煥監督が右サイドのテコ入れを図った。サイドハーフに米倉恒貴、そしてサイドバックが田坂だ。こんな裏話を明かす。

「あの並びでやるのは今季初めてで、コンビネーション、コーチングの部分でも(プレーを)やりながらというところがあったんです。声を掛け合いながら最終的に(失点を)ゼロに抑えられたのは、チームとしてもディフェンス陣としても手応えがありました」

「並びのところであまりやったことがなくて、スライドのところで遅れてしまい、中盤とディフェンスラインの間でスペースを使われていました。だから飲水タイムのときに話をして修正して、そこからは1点のリードをうまく使いながら、相手が出てきたら裏を使ったり、守ってから出ていくということが徹底できて良かったと思います」

 ぶっつけ本番、というと大げさだが、状況に合わせてしっかりと話をしながら、ピッチの中で修正を施して結果として残していく作業ができた。それはおそらく、田坂の経験とリーダーシップがあったからこそだし、超連戦が続いて選手の入れ替わりが激しくなりそうな今後の戦いを踏まえても、非常に有意義な勝利だっただろう。

 技術的、戦術的な部分でも尹晶煥監督の要求は細かく、丁寧だという。

「構えて守備をすることも多いので、確かに攻撃のスタートの位置は低いこともありますね。その中で(サイドバックとして)自分が前線の選手をうまく走らせて使うことだったり、相手がプレッシャーかけたところをかわして前にくさびのパスをつけたりというところは、サイドバックをやるときの自分の強みだと思っています。そこはどんどん出していきたいし、自分が何かしようというよりは、うまく前線にボールをつけてあげるのを意識しています」

 自分の周囲の選手が特徴を引き出せるように…。このあたりもベテランらしい気遣いであり、勝利へのゲームコントロールの一つと言えるだろう。

 そのパスの技術にも尹晶煥監督はこだわっていて、「中長距離のキックを大事にしようとユンさんは言っています。相手を一人、飛ばしたところにつけるパスの精度、味方が落としてくれたボールをダイレクトで出すパスの精度のことはよく言われます」と緻密だ。いくつになっても勉強である。

 田坂にとっていろいろな意味を持った水戸戦の90分。これを継続していくための次の一歩が、7月11日の第4節、栃木SC戦になる。

「相手はラインが高いですから、その間を突いていったりスペースを有効活用しながらプレッシャーの方向をずらしていければ、主導権を握れるのではないかと思います」

 まさにそのスペースを有効活用するための右サイドバックからの丁寧なパスに、ぜひとも注目してもらいたい。