6月27日のJ2リーグ第2節から注目のプレーをピックアップ。3-3の打ち合いを演じたヴァンフォーレ甲府対アルビレックス新潟から前回の新潟に続き、今回は甲府の「面白さ」について綴る。

上写真=新潟戦で2点を記録したドゥドゥ(右)と松田力(写真◎J.LEAGUE)

■2020年6月27日 J2リーグ第2節(@中銀スタ)
甲府 3-3 新潟
得点:(甲)ドゥドゥ2、太田修介
   (新)渡邉新太2、シルビーニョ

左と中のスイッチ

 伊藤彰監督の決断は、早かった。

 19分に失点。しかも、アクシデントによるものではなく、相手に守備ではめられて完璧なまでに中央を割られた上での一撃だった。だから伊藤監督は、まだ序盤ではあったけれど、選手の配置をすぱっと変えた。

 4-2-3-1のフォーメーションで、スタートは1トップにジュニオール・バホス、その後ろに右から松田力、泉澤仁、ドゥドゥを並べた。しかし失点の直後、泉澤とドゥドゥのプレーエリアを入れ替えたのだ。すべてが明かされるわけではもちろんないが、試合後の伊藤監督の言葉にヒントはある。

「自分たちが用意してきたところ、守備のところとアタックのところで、相手のメンバーも変わってましたし、修正しなければいけない部分がありました。本来、泉澤は左サイドで力を発揮する選手ですし、逆に(ドゥドゥと)代わったことによって(本来の左に戻り)、彼のクロスからドゥドゥが中に入って点を取ったことはすごく良かったと思います」

 準備してきたことに固執する監督も多いが、相手を見て切り替えるのが伊藤流。33分の同点弾は、左に回った泉澤がタッチライン際を得意の緩急をつけたドリブルで抜けてクロス、ファーに回っていたドゥドゥがヘッドで丁寧に押し込んで生まれた。直後の35分には新潟のパス回しを左サイドにじわりと追い込んでバックパスのミスを誘い、ジュニオール・バホスが拾ったところを中央に流して、ダッシュしてきたドゥドゥがワンタッチフィニッシュを突き刺した。

 手を加えた左から中への連続ゴール。監督の意図がここまで見事にはまることもなかなか珍しいのではないか。

共通する単語は「クロス」

 はまる、といえば、後半もそうだ。62分にジュニオール・バホスをあきらめてハーフナー・マイクを、72分にはドゥドゥに代えて金園英学を投入した。ツインタワーの完成である。

 最前線に並ぶ身長194センチと184センチのエアバトラー。旗幟鮮明。サイドからどんどんボールを入れていく作戦だ。

 結実は90+4分。左からの内田健太のロングスローをニアでハーフナーがヘッドで流し、中央に走り込んだ太田修介が左胸に当てて押し込んで3-3の同点としたのだった。自身も62分から途中交代で入っていた太田は「マイクとゾノさんの2トップになって、分かりやすい戦いになりました。だから、2人の近くにいればこぼれてくると思いました」とミッションコンプリートの興奮を口にした。

 実は、ハーフタイムと試合後の伊藤監督のコメントに共通して登場する単語は「クロス」だ。前者は「もっとクロスを入れてゴールを狙っていこう」、後者が「いまチームでやっているクロスからの攻撃というところはまたすごくよかったかなと思います」。試合後のオンライン会見でも、その口調から成功体験の自信が伝わってきた。

 今後、甲府と対戦するチームが警戒するとしたら、バリエーション豊富な攻撃陣だろう。ジュニオール・バホスのポテンシャルは強烈で、技術、身体能力、スピードとどれも魅力たっぷり。化ければオルンガ(柏レイソル)のようなゴールモンスターになるかもしれない。そこに老獪なテクニシャン、ドゥドゥが絡んでくるから厄介だ。後半のツインタワーもパワフルで、逆にこの2人が先発して外国人コンビが後半から出てくるケースも考えられるとすると、想像するだけで守る方に同情したくなる。

 泉澤の突破力、松田の献身、内田の鋭い左足など攻め手が揃い、この日は出番がなかったラファエルもいる。2009年から約3年、大宮アルディージャでプレーしたFWは、J1で通算83試合24ゴールを記録。こちらも身長190センチと高さが武器だ。

 多士済々のタレント、彼らを気持ちよくプレーさせ、決断の早さと迷いなき采配で交代策をズバズバと当てた伊藤監督の手腕。まだ再開したばかりだが、「VFK2020」 の強みはこんなところにありそうだ。

取材◎平澤大輔 写真◎J.LEAGUE