6月1日に全体練習が再開したザスパクサツ群馬。それから1週間後の6月9日、奥野僚右監督がオンライン取材に応じた。未曾有の事態にもまったくブレない指揮官が見据える「最終形」は開幕前と変わったのだろうか。

上写真=オンライン取材の画面越しに手を振る奥野監督

良い、悪いの解釈は必要ない

 リーダーが毅然としていれば、チームが揺らぐことはない。長い長い自粛期間を過ごせば不安になりがちだが、奥野僚右監督の言葉には「ボス」としての凄みがみなぎっていた。

「中断期間というものの捉え方の話ですよね。私たちは、あるがままを受け入れる精神性を持っていこう、ということです。端的に言うなら、誰もが経験したことないことにしっかりチャレンジしていこう、と。良い、悪いの解釈は必要ありません。試合が延期になった、というだけで」

 2月23日の開幕戦ではホームに11,038人のファン・サポーターが集まったが、アルビレックス新潟に0-3の完敗を喫した。「再開」はそれから4カ月も空いてからとたっぷり時間があったこともあり、それほど悪い印象は残っていない。

「チームとしては、最終形としてどういう姿でありたいか。そこが変わっていませんから、(中断期間にも)変更点がまったくないんです。もちろん、体で覚えていたことが“ぬるく”なったところはあるかもしれないけれど、大事なのは共通理解の部分。1日1日を大事にして選手は頑張っている。私たちコーチングスタッフも同様です」

 つまり、身体性の部分は物理的に落ち込んではいるとしても、精神性の部分で何も変わっていない、ということだ。「最終形」を作り上げていく選手たちからすれば、「不変」こそ最強のよりどころになるはずだ。

根本的な部分を振り返る時間

 そんなさまざまな状況をひっくるめて、奥野監督はいまのチーム状態を「極めてノーマル」と表現した。自分たちで築いた基準に絶対の自信を持っています、と言っているかのようだった。

 もしかしたらそれは、自粛期間で手にした悟りのようなものだったのかもしれない。奥野監督は「平常心でいることができた期間だった」と振り返っている。

 異例の事態ではあるけれど、自分たちだけが特別にひどい目に遭っているわけではない。そこで心のゆらぎのようなものが生まれたら、ただちに穴になる、ということをプレーヤー時代や、のちにコーチの道に入ってからの経験によって知っているのだろう。だから、平常心。

「一喜一憂することなく取り組んでくることができました。いまできることは何か、将来見せられるサッカーで何を伝えることができるのかを掘り下げる機会になりました。技術的・戦術的な部分はもちろんですが、根本的な部分を振り返る時間になったと思います」

 奥野監督自らが磨き上げた知性と信念によって、6月27日に予定されている再開後も、ザスパクサツ群馬は変わらぬアグレッシブさで立ち向かっていくだろう。